湯たんぽの素材によって保温時間に違いはあるのか?

湯たんぽの保温時間は、その素材によって違うのでしょうか?

結論としては、「湯たんぽの保温効果は素材によって異なるけれども、通常の使い方ではあまり差が出ない」と言えます。

なぜそうなのか? それでは保温時間が長持ちするのはどのような湯たんぽなのかについて、以下に説明します。

布団に入れる場合は湯たんぽの素材による保温性の違いはあまりない

これは誤解されていることが多いようなので、まず始めに説明していきます。

通常湯たんぽは、専用のケース(袋)にいれたり、タオルを巻くなどして、その暖かさを調整したのちに(寝るときは)布団に入れるといったような使い方をします。

このような使い方をする場合、湯たんぽの素材自体の保温能力を気にする必要はありません。

なぜ気にする必要がないのか、湯たんぽの保温性についてググっていて見つけた、以下のニュース記事を例にとって説明していきます。

ニュース記事になっていた変な実験

最初に見つけたのが、こちらの産経ニュースの記事(←無くなりました)ですが、これは株式会社エフシージー総合研究所が連載を担当しているらしい産経新聞の「比べる✕調べる」連載コラムの一つのようです。
エフシージー研究所の方でもこちらに同じ記事が公開されていました。

これ、もし大学などの学生がこんなレポートを提出したら教授が泣くレベルのお粗末な内容なんですけど、(書いている僕が)退屈せずに素材による違いを説明するのにちょうど良さそうだったので、こちらを引用させていただきながら説明していきます。

ちょっと否定的な書き方になっちゃっていますが、実験を行ったとおもわれるこの会社をディスる意図はまったく無いです。
おそらく時間もお金も使えない中でやっつけの実験をして、なにか調査した風のレポートを書かざるを得なかった大人の事情があったであろうことが容易に想像できる書きっぷりなので。。

実験方法

これは、種類の違う複数の湯たんぽの保温性を比較(しようと)した実験です。
実験方法は参照元に書いてありますが、それをまとめると以下のようなものです。

  1. 以下の4種類の湯たんぽを用意する(参照元ではこの他、電子レンジ加熱式のものと電気蓄熱式の物も同じ実験を行っていますが、当記事の内容には無関係のため省略します)
  材質使用湯量
合成樹脂製 ハードタイプポリエチレン2L
合成樹脂製 ソフトタイプポリ塩化ビニル1.5L
金属製トタン2.2L
陶器製美濃焼3L

株式会社エフシージー研究所 : 「比べる✕調べる」(81) 湯たんぽ より引用・抜粋

  1. ①②③④に60℃のお湯を入れる
  2. それぞれの湯たんぽにタオルを巻いた上、布団の中に入れる
  3. タオルの表面温度を8時間測定する

実験結果

結果は以下です。引用元では測定結果がグラフになっていますので、詳細はそちらで参照してください。

お湯を入れるタイプは④>③>①>②の順で8時間後の温度が高い結果に。ですが、④と②の温度差は2℃程なので、使用湯量を考慮すると、同じ布団に入れるのであれば、湯たんぽの材質による保温効果の差はあまり大きくないようです。

株式会社エフシージー研究所 : 「比べる✕調べる」(81) 湯たんぽ より引用

問題点

この実験方法には最初から無理があるのです。

まず、使っている湯たんぽが、おそらく形状も大きさも異なるものだと思われ(この情報がない時点で実験レポートとしての信頼性は無いわけなのですが。。)、入れるお湯の量も違います。

これでは比較実験の体を成していないんです。
なぜなら、この状態で結果に差が出た場合、それが素材の違いによるものなのか、湯たんぽの形状・サイズによるものなのか、あるいはお湯の量の違いによるものなのかがわかりませんよね?
比較実験をする場合、比べたいもの(この場合は素材)以外は条件を揃えるということは、「比較実験」の基本中の基本です。

実験・研究が本業とおもわれる会社でミスってこんなことをしたとはちょっと考えにくいです。
「大人の事情」かなにかで低予算・短納期で実験”風”のことをせざるを得なかっただけだと僕が思っているのはこのためです。

そして結果のほうすが、最初から無理があった実験だけに、なんだか投げやりです。
「④と②の温度差は2℃程なので、使用湯量を考慮すると、同じ布団に入れるのであれば湯たんぽの材質による保温効果の差はあまり大きくないようです。

なんでお湯の量を考慮すれば差がないと言えるのか、何の説明も有りません。
これは後に述べるように「布団に入れたら素材の差は出ない」ことは初めからわかっているため、無理にそういうことにしたのではないかと想像しています。

おそらく、結果は案の定、単にお湯が多い順に保温効果が大きくなっちゃっただけだったけど、材質による差については最初から知っていたとおり布団に入れたら差が出ないってことに無理やりしてみたんじゃないかと思います。

ちなみに、「温度の差が2℃しかなかった」ことだけを持ち出すのはフェアな表現ではなく、これについてはちょっといただけないと思います。

参照元にある結果のグラフを見ると、温度が2℃下がるのにだいたい2時間くらいかかっています。つまり、保温時間にすると2時間程度の差があったという結果です。2時間という保温時間の差はかなり大きいと僕には思えます。

「保温効果」を比較するわけですから、一定以上の温度を維持する時間で比較するのが自然なように思います。なぜ一定時間が経過した際の温度のみに言及しているのでしょうか?
さすがにこれは意図的に保温性の差が少ないように印象づけようとしているのではないかと疑ってしまいます。

こんなわけのわからない結論にしているので、産経の記事では(おそらく悪意は無いのでしょうが)この結果を読み違えて、「湯たんぽ 材質による温度差は約2度」なんていう間違った見出しがつけられちゃっています。
※ もちろん実験を行ったエフシージー研究所の方にはこんな見出しはついていません。

なぜ素材による差があまり出ないのか?

ところで、最初にまとめた実験手順の3に着目してみます。湯たんぽにタオルを巻いて布団に入れるというものであり、ここは重要なポイントです。これは通常湯たんぽが使われる条件に近いものですよね。

この条件って、湯たんぽを断熱性の高い(保温性の高い)素材で厚く覆っているわけです。
タオルや分厚い布団の高い保温性と比べると、湯たんぽの薄い素材自体の保温性は相対的に無視できるくらいのレベルになります。
なので、この条件では素材による保温性の違いがほとんど出ないことは実験する前からわかりきっていることなんです。おそらく実験した人も承知の上だと思います。

ふとんによる保温

湯たんぽのお湯を保温するのは、湯たんぽに巻いた(保温性の高い)タオル/カバーやふとんによる効果が大きいため、湯たんぽの素材(図の黄色線部分)による影響は相対的に小さくなります。そのため、全体の保温効果に対する影響は小さくなります。
→ (保温性の高い)布団に入れて使う場合は、湯たんぽの素材による保温時間の違いはあまりなくなります。

タオルやケースも使わずふとんにも入れない場合の素材による違いは?

それでは、タオルで巻いたり専用ケースに入れたりせず、ふとんにも入れないでそのまま使う場合の素材による違いはどのようなものでしょうか?

もちろん、この場合は素材による違いがそのまま結果に出てきます。

保温性と熱伝導率

これもたまに誤解されていることがあるようですが、基本的に同じ厚みの場合は熱伝導率が低い素材ほど保温性が高いです。こちらは直感的に理解しやすいと思いますが、厚みは大きいほうが保温性が高くなります。

保温性が高いということは、すなわち熱が外に逃げにくいということです。

つまり、
熱伝導率が高い→熱が移動しやすい→湯たんぽ内の熱が外に放出されやすい→冷めやすい=保温性が低い
ということになります。

つまり、熱伝導率が高い素材の場合、熱を放出する勢いは強い(湯たんぽ表面の温度が高くなる)けれども、その持続時間は短くなります。

逆に、熱伝導率が低い素材は、熱を少しずつしか放出しない(湯たんぽ表面の温度が高くなりにくい)けれども、その持続時間が長くなります。

例えば、熱伝導率が高い金属製のコップに熱いコーヒーを入れた場合、最初は熱くて持てませんが、冷めるのは早いですよね。
一方熱伝導を抑える構造のタンブラーなどは、外側が熱くならず、中のコーヒーも長時間冷めないですよね? これと同じ理屈なんです。

そのため、湯たんぽ単体の保温性(つまり、タオルやふとんで包まない場合の保温性)を考えた場合、薄くて熱伝導率の高い金属性のものは保温性が低く、厚みがあり熱伝導率が低い陶器製の湯たんぽは保温性が高いのです。

金属性の湯たんぽは熱伝導率が高いので保温性が高いという説明をたまに見かけますが、これは間違いであり、実際には全く逆です。
※ 同じ金属製でも銅製の湯たんぽは熱伝導率が特に高いため、(裸で使えば)保温時間はトタンの湯たんぽより短くなります。

保温性に影響が大きいのは最初に入れるお湯の量と温度

上でも述べましたが、布団の中で使うぶんには、素材による差はあまり出ません。
それでは、湯たんぽの暖かさを長時間保つためには、どのような湯たんぽを選べばよいのでしょうか?

当たり前の結論になってしまいますが、長時間暖かさを保ちやすいのは、容量が大きい湯たんぽです。

湯たんぽの熱の源は、最初に入れるお湯しかありません。
その理由をざっくりというと、湯たんぽから出る熱量の総量は最初に入れたお湯が持っている熱量の総量に等しいからです。
厳密には最初から湯たんぽが持っている熱量とか、最後まで湯たんぽ内に残っている熱量等々も含めて「等しい」なんですけど、それを言い始めちゃうと説明が細かくなりすぎますので勘弁してください。

ということは、ケースに入れたりタオルを巻いたりして、熱がちょっとずつじわじわと放出されるようにすれば、(その分温度は低いですが)暖かさは長持ちし、その時間は最初に入れるお湯の温度と量によって決まることがわかりますよね?

つまり、単純に(程よい)かさを長持ちさせたい場合、熱いお湯がたくさん入る湯たんぽを使い、タオル等を使って程よい温度になるように調整してやればよいということがわかります。

湯たんぽにあまり高温のお湯を入れるのは危険なのでやめましょう。
湯たんぽによって、使用可能な最大温度は違いますので、必ず説明書に従うようにしてください。
普通に使う場合の目安としては60℃くらい、最大でも80℃と考えてください。(使う製品の最大使用温度は絶対に超えないようにしてください)
湯たんぽの保温時間には、その形状(表面積の大きさ)も大きく影響します。
ただ、一般的な湯たんぽの形状(表面積)には大きな違いはなく、ここで述べている湯温や容量によるほどの差はでないと思います。

遠赤外線の効果?

昭和の時代、アメリカのNASAにより、遠赤外線(の一部の波長帯)は体の内部まで浸透するという発表があったそうで(この発表に関する資料は見つけられませんでした)、当時は遠赤外線ヒーターを使ったコタツなどの製品が、なにか他のものより体に良いものであるかのようにもてはやされていた時期がありました。

そのため、今でもそのころを知る世代の人の中には、遠赤外線は体の内部まで到達し、体を内部から暖めると信じている人も多いですし、今でもこの40年前も前のNASAの発表を根拠として遠赤外線が体の内部に浸透するとしている「営業トーク」も見受けられます。
根拠が40年前にあったらしい発表しかない(しかもその具体的なソースは示されていない)時点で信憑性に疑問符がつくんですけどね。。

細かな理屈を書くとまた長くなるし、おそらく面白くもないので詳細な理由は省きますが、現代では遠赤外線が人の体の内部深くまで浸透するということは否定されています。
ごく簡単に説明すると、人体は遠赤外線をすごく良く吸収するので、内部に届く前に皮膚の表面付近で全部吸収されてしまいます。浸透するのはせいぜい皮膚から0.2mmくらいまでとのことです。

ところで、陶器製の湯たんぽについても遠赤外線を出すので保温性が高いとか体を芯から暖めるという説がたまに見受けられます。
これはちょっと疑問に思っています。

まず、遠赤外線を出すかどうかは保温性とは関係ありません。先に説明したとおり、熱源はお湯だけであり、熱が放出される形態が遠赤外線であろうと熱伝導や空気の対流であろうと、トータルの熱量は変わらないからです。エネルギー保存則がありますからね。

体を芯から暖めるということについても、すでに述べたようにそんなことはありません。
ただし、熱の伝わり方の違いにより人の感じ方も違うでしょうから、もしかしたら「なんかそんな気がする」くらいのことはあるのかもしれません。

とは言え、そもそも40-50℃程度の物質から出る遠赤外線はそれほど強くないですし、ケースに入れたりタオルで包んでいたらほぼそれらに吸収されてしまうでしょう。
その場合は今度はそのタオル等が遠赤外線を出すわけですが。。

ちなみに、湯たんぽにもよく使われるゴムやプラスチックなども、陶器と同じくらい遠赤外線を出します。(参考資料 : 1. 長崎県窯業技術センター研究報告    、2. 日本アビオニクス株式会社)
陶器製だからといって特別に他のものより遠赤外線を多く出すというわけではないです。
※ 金属はほとんど遠赤外線を出しません。

まとめ

ここまで説明したことをまとめますと、以下のようになります。

湯たんぽ単体での保温性は使うお湯の量や温度が同じであれば素材によって変わり、保温性が高いものから並べると以下の様になります。
 陶器 > ゴム/プラスチック等(厚みなどにより前後する) > 金属

ただし、多くのケースではカバーで覆ったりタオルを巻いて使い、この場合は素材による差は出ません。

保温時間を大きく左右するのはお湯の容量です。

これらより、多くの場合は、保温時間を長くしたい場合は、素材よりも容量を気にしたほうが良いという結論です。

素材については、見た目の好みやその他の使い勝手等で選択するのが良いと思います。

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