以前、ある人からとある本について教えてもらいました。
その人はその本について何か思うところがあったようなのですが、正直なところ僕はあまり興味が湧かず、放置していました。それまでキャンプ本とか読んだことも無かったし。。
それが、先日たまたま見かけたときになんとなく買ってしまいました。
↓こちらの本です。
キャンプでは無意識にやっていることや、ちょっとした疑問に思うようなことを専門家が回答していくというものです。
誰にでもわかりやすく簡潔に説明することが主眼だと思いますので、たとえば理系の闇に陥ってしまっような人などには物足りない部分が多々あるとおもいますが、ライトに読むぶんには非常におもしろいと思いました。
ところで、本記事のタイトルである「シーズニングでのくず野菜炒め」については、本当に必要なのかどうか、以前からモヤモヤしていました。
この本にもそのテーマについてかかれているのですが、僕のモヤモヤは解決しなかったばかりか、そのもやもやを掘りおこされてしまったので、それについて書いていきます。
※ 本ではどう説明されているかについては書きません。興味がある方は本をみてね。
はじめに
かなり前ですが、以下の記事を書きました。
読者が少ない当ブログの中ではいまだによく読んでいただいている記事です。
そもそも鉄フライパン/スキレット等のシーズニングってなんなの? なんのためにやるの? って人はできればまずこの記事をお読みいただきたいです。
この記事の中でもちらっと書いたのですが、ネットなどで調べるとよく出てくるのが、スキレットなどのシーズニングの際にくず野菜を炒めるというものです。
僕自身はシーズニングでの野菜炒めはやっていませんが、実際のところ何らかの効果があるのかモヤモヤが残っていました。
当時から数年たった今、なにかこのモヤモヤを解決してくれる新たな情報はないかと、ネットで調べてみました。
ちなみに、タイトルにあるように、結論は出ませんでした。
結論だけ知りたかった人には申し訳ありません。ここまでとなります。
みんなくず野菜炒めやってるの?
「シーズニング 方法」でグーグル先生に聞いたところ、検索順位のTop3は以下のサイトでした。
- シーズニングってどうやるの?必要な道具とやり方まとめ | 【CAMP HACK】日本最大級のキャンプ・アウトドア・ニュースマガジン – キャンプハック
- シーズニングの方法は?やり方を徹底解説!スキレットやダッチオーブンを育てよう – Arizine(アリジン)
- スキレットのシーズニング簡単6工程!調理後や焦げ、サビのお手入れも | ソトレシピ|キャンプ飯レシピ&アウトドアライフ・プラットフォーム
これらのサイトで紹介されているシーズニング方法は(細かなところは省略して)ざっくり以下の感じです。
- 油を塗って熱する
- これを3~5回(回数はサイトによって違う)繰り返す
- くず野菜を炒める
といったところです。
実際のところ「シーズニング 方法」でググって出てきた上位10サイトが例外なくすべて上記の方法でした。
つまり、まず普通の(?)シーズニングをして、最後の仕上げにくず野菜を炒めるという方法ですね。
というわけで、さすがに上位10サイトが同じことを言っているとなれば、多くの人はこれらのどれかを見て、くず野菜炒めを実践しているのではないかと想像します。
それでは、ひょっとすると日本の人たちだけしかやっていない、この「くず野菜炒め」は、一体何のためなのでしょうか?
巷で言われている「くず野菜炒め」をする理由について考えてみます。
説1 : フライパン/スキレットの鉄臭さをなくす
個人的には「そんなわけないでしょ」と思っている説です。
実際のところ、シーズニングで野菜なんか炒めなくても鉄臭さなんて感じたことはないです。
「臭い関係ない」と思っているのは、あくまでもちゃんとシーズニングされたスキレット等に関してです。
そもそも鉄臭さって何?
鉄そのものに臭いは無いです。
臭いを感じるということは、何らかの物質が鼻の神経に作用しているということですよね?
つまり、何らかの物質を空気中に発散するようなもの(多少なりとも揮発性があるもの)でないと、臭いはしません。
そして、鉄そのものは普通の環境下では揮発などしませんので、当然臭いはしません。
でも、実際に「鉄くささ」を感じることはありますよね?
実はあれ、鉄ではないなにかの臭いなのです。
鉄の臭い(といわれる臭い)の代表が1-オクテン-3-オンという物質で、たとえば人間などの皮膚の脂質が鉄イオンを触媒として(鉄イオンが脂質の変化の手助けをして)発生するものです。
参考 : Wikipedia
ちなみに「鉄イオン」ですが、これは例えば鉄と水が触れると、その中に鉄が鉄イオンとなってすこし溶け込むことによってできています。
ここで、鉄イオン(Fe2+)が含まれた水(つまり鉄に直接触れた水)を飲むとどうなるでしょうか?
正解は「口の中にある脂質が鉄イオンため1-オクテン-3-オンなどになる」です。
なので、鉄イオンを含む水(鉄が溶け出している水)を飲むと嫌な味・臭いを感じるというわけですね。
赤サビからは特に水にFe2+が溶けやすいです。
錆びた鉄棒だと特に手が臭くなったりとか、錆びた鉄鍋を使うとすごく鉄臭くなるのはそのためです。
臭いの正体はわかった ではそれを無くす方法は?
これまでの説明で、鉄臭さを防ぐには、料理などに鉄イオンがあまり溶け込まないようにすれば良いということがわかりましたよね?
さて、ここで多くのサイトなどで紹介されている、シーズニング方法をもう一度見てみましょう。
- 油を塗って熱する
- これを3~5回(回数はサイトによって違う)繰り返す
- くず野菜を炒める
大事な点は、この1番目の手順を終えた時点で、鉄の表面には重合油の被膜ができています。
このあたりの詳しい説明は先に述べた以前の記事を参照してください。
ということは、1番目を終えた時点で、(ちゃんと被膜ができていれば)調理をしても水や食材は鉄に直接触れることはありません。
つまり、鉄イオンが料理に溶け出すことはないため、野菜なんか炒めなくても鉄臭くはならないということになりますね。
そもそも、野菜に鉄臭さを防ぐ(鉄イオンが水に溶け出さなくなる)ような不思議な作用があるなんて言うのは、僕にはちょっと信じがたいです。
さらには、「香味野菜がおすすめ」なんて話まで出るに至っては、実のところは「なんとなくそんな気がするってだけ」で言っているだけのオチじゃないかと疑いたくもなります。
「野菜炒め」に意味があるケースもあるにはあると思う
鍋やフライパンのメーカーである和平フレンズさんの公式ブログ記事に、スキレットのシーズニング方法として紹介されていた手順がありました。
ざっくり以下の感じです。
- スキレットを空焼きする ← おそらく錆止めを焼き切る&水分を完全に飛ばすため
- スキレットに多めの油を入れて熱する
- 表面全体に油をまんべんなくなじませる
- 油を捨てる
- 油を追加して野菜を炒める
焦げ・サビにくく!鉄スキレットのシーズニング(油ならし)方法解説 より要約
この手順の場合、被膜が形成されるのは5の野菜を炒めるところだけになると思います。
2~4の手順は何の意味があるのかわかりませんが、ここでは被膜はほとんど形成されないはずです。
数十分とかの短時間で被膜を形成するなら空気(酸素)にふれるようにするため、油を薄く塗る必要があります。そのへんの理屈は以前の記事参照
ここのように、後で捨てるほど油をたっぷり入れちゃうと被膜はほとんどできないはずです。
さて、5の油をいれて野菜を炒めるところですが、理屈からしてこれは油を薄く塗って加熱するのと同じことが起きるので、油の重合化が進むと思われます。
多少油を入れすぎても野菜をかき回していれば、薄く塗ったのと同じ状態になって空気に触れる機会も増えたりするでしょうしね。
というわけで、このやり方では「5. 野菜を炒める」が抜けるとシーズニングができない、すなわち鉄臭い料理ができる、スキレットになってしまうということになります。
とはいえ、これは単に被膜を作るときにたまたま野菜を炒めているだけのことで、野菜が鉄の臭いを防ぐということには全然ならないとは思います。
これは100%僕の勝手な想像です。
むかしむかし、鉄鍋が世の中に広まってきた頃の話です。
丈夫で長持ちする鉄鍋ですが、人々は料理が鉄臭くなることに悩んでいました。
そんなとき、一人の野菜炒め好きの男があることに気がついたのです。
「最初に野菜を炒めると、料理が鉄臭くなくなる!!
おまけに錆びにくいし、肉も焦げ付きにくいみたい!!」
男はその話をみんなに教えてあげました。みんな大喜びです。
その後、その国の人々は、新しい鉄鍋を買うとまずは野菜を炒めるようになりました。
当然昔は「油がポリマーの被膜になる」なんてことは知る由もないし、例えばこのような「生活の知恵」で自然と野菜の油炒めでシーズにニングすることが定着したのかもしれません。
そして、実際には油を薄く塗って熱するだけで手っ取り早くシーズニングできることが知られるようになった今日においても、このような過去の方法が理由を問われるもことなく残っているというただそれだけのこと「かも」しれませんね。
今のところ、僕の考えは「普通のシーズニングをしたあとにわざわざ野菜を炒めるメリットはないけどデメリットもない」のではないかということになります。
説2 : 野菜に含まれる水分が被膜形成の役に立つ
個人的には「もしかしたらなにかあるのかもしれないけど、よくわからないな。」という説です。
いまのところは、否定7割、肯定3割くらいのところでモヤモヤしています。肯定する根拠も否定する根拠も無いです。
臭い消しの説に比べるとだいぶ少数派のようですが、検索してみるといくつか見つかります。
例えば、先程参照させていただいた和平フレンズさん公式ブログの同じページに以下のような記載があります。
シーズニングにくず野菜を使う理由は、くず野菜に適度な水分が含まれるからです。
水分には油の性質を変える効果があります。この効果が、シーズニングで油を定着させる際に役立ちます。
また、すぐに焦げたりせず、スキレット表面にまんべんなく油をなじませることができます。
つまり、くず野菜はシーズニングにぴったりの材料なのです!
焦げ・サビにくく!鉄スキレットのシーズニング(油ならし)方法解説 より
「水分には油の性質を変える効果があります。この効果が、シーズニングで油を定着させる際に役立ちます。」
説明はこれだけなんですよね。。 あと3行だけでも詳しく書いてくれていたら。。
他にも「野菜の水分」説を唱えるところは見つかりましたが、その説明は上のものと大差ないか、さらに混乱を招きそうなものばかりです。
7割がた否定的に考えちゃう理由
先にも述べましたが、いまのところ僕はどっちかというとこの説にも懐疑的です。
ここではその理由のいくつかを述べておきます。
上記以上に僕がリーズナブルと思える根拠を誰も述べていない
「油の性質を変える効果」って何効果? シーズニングで油を定着させる際に役立つ効果って何効果?
誰も教えてくれていないんですよ。。 誰かしらはちょっとだけでも解説してくれる人がいそうなものでしょ?
さらにいうと、同じメーカーさんのサイトの記載ですが、
天ぷら鍋以外の鍋(中華鍋、フライパンなど)では使い始めに鉄の臭いが気になる場合があるので、ネギの青い部分・キャベツの芯・玉ねぎ・セロリの葉など香味野菜のくずを一緒に油で炒めて鉄臭さをとります。
鉄製品について | 和平フレイズ株式会社 より
こっちではなんと香味野菜説ですよ。。
「実は、水分が効く理由をちゃんと科学的に説明できる人はどこにもいないんじゃないの?」って、うっすら疑っています。
水分が効くならなぜ最初にカンカンに乾かす必要があるの?
野菜炒めをするとしている説明でも、最初に錆止めを洗い流したあとに水分を完全に乾かすという手順を必要としているものばかりです。
水分が効くなら、むしろ乾かさないほうが良いのではないの? なんで乾かしちゃうの?
シーズニングに良いならなぜ最初から野菜を炒めないの?
ほとんどの説明では、まず野菜炒めせずに、僕が普通と思っているやり方(油を薄く塗って加熱)を複数回繰り返すようにしています。
野菜を炒めたほうがシーズニングに良いなら、なんで最後の一回しかやらないの?
3割肯定的に考える理由
では、完全に否定に振り切れていない理由です。
否定に振り切れていないというか、本当だったら面白いなっていう期待もあっての3割なのですが。
だって、もし水分(H2O)が効くなら、例えば「水蒸気オーブンとか使うともっとすごいことになるんじゃないか」とか思いますよね。
水分説にはなんかありそうだから
「水分には油の性質を変える効果があります。この効果が、シーズニングで油を定着させる際に役立ちます。」
メーカーさんがこの書き方をしているなら何かありそうですよね。あってほしいですよね。
「水分がフライパンで熱した油の性質を変える効果」といって思いつくのは、、、加水分解、、、くらいが僕の限界のようです。
なんとなく、加水分解は重合化とは逆方向の変化のようにイメージしちゃうのですが。。
加水分解でいったん脂肪酸に分解したほうが重合化しやすくなるとかあるのかなとか考えると、あってもよさそうな気もするけど。。それっぽい情報もみつからないし。。
化学は専門外である僕がググってみたくらいで太刀打ちでするものでは無いようでした。
誰かこれわかる人いませんか?
おわりに
というわけで、僕は今のところ、シーズニングでくず野菜を炒めたほうが良いという説には、やや懐疑的なものの、否定もしきれないという感じです。
結局モヤモヤは晴れませんでした。死ぬまでたまにモヤモヤすることになるのかもしれません。
正解は「信じる人がやれば、きっと良い効果がある」といったところでしょうかね。
ところで、シーズニングで野菜を炒めるのは日本特有の文化なのですかね?
英語でシーズニングの方法をググっても、野菜を炒める工程を含むものは見つけることができません。唯一見つけたのは日本の調理器具メーカーの英語版サイト。。
普通に、薄く油を塗って加熱する、を数回繰り返せば完成としているだけです。
少なくとも英語圏の人たちにはこの方法は広まっていないのではないかと思います。
日本語・英語以外の言語では確認していない(僕にはできない)ので、日本だけの方法なのかどうかはわかりません。だれか知ってる人いますか?