ガイロープの選び方

テントやタープのガイロープ(ガイライン/張り綱)の耐荷重(強度)は、大きければ大きいほど良いって言うわけではありません。本記事ではファミリーキャンプ(オートキャンプ)で使うガイロープに必要な耐荷重(強度)はどれくらいなのかについて解説します。

以下の記事では、主に張り綱の素材による違いや、強度が劣化する要因について解説をしました。本記事では、実際にテント・タープに使う張り綱はどの程度のスペックのものが良いかについて説明していきます。

ガイロープは切れたほうが良い(?)

強風により、テントやタープが倒壊してしまうときのことを考えてみます。

この時、最も破損してもよいと思われるのはどこでしょうか?

まず、一番避けたいのは、ペグが抜けることです。
強風に煽(あお)られて抜けたペグはどうなるでしょうか?
風の煽りをうけたタープに引っ張られたガイロープにより、抜けたペグが弓矢の矢のように飛んでいく可能性がありますね。これは凶器ですよ。
オートキャンプでは、テントやタープの幕体やポールが破損したくらいで生命に関わることは稀です。
最近はスノーピークのソリッドステークに代表される鍛造ペグが人気ですね。これがミサイルみたいに飛んでくることを想像してみてください。
幕体やポールの破損よりも、ペグが抜けることのほうがよほど怖いことです。

次に考えるのは、やはり幕体の破損かと思います。
これは経済的な損失が大きいですよね。そして精神的なダメージも大きい。。

同様にポールが折れるのも、経済的に痛いですよね。
とはいえ、ペグミサイルを飛ばすことを考えれば、幕体やポールの破損のほうがずっとマシであることに変わりはないわけですが。。

どうでしょう?
こう考えると、ペグが抜けたり、幕体やポールが破損するくらいだったら、その前にガイロープが切れてくれたほうがいいと思いませんか?

というわけで、ガイロープの強度が高すぎるのも考えもので、ガイロープは消耗品と割り切れば良いのではないかと僕は考えています。

ガイロープに必要な耐荷重

それでは、具体的にガイロープはどのくらいの耐荷重(強度)があればいいのでしょう?
ガイロープが受ける負荷や劣化の要因と程度について解説していきます。

ガイロープが受ける負荷

それでは、実際にガイロープが受ける負荷(力)はどの程度なのでしょうか?

これについては、信頼に値する情報を見つけることができませんでしたので、(かなり乱暴な仮定に基づいたかなりざっくりしたものですが)以下に計算してみました。

まず、4m✕5m=20m2のタープを考えてみます。このサイズであれば、わりと大型な部類に入ると思います。僕が所有しているタープで一番大きなものが20m2弱のサイズです。
風速は30m/s(毎秒30メートル)とします。僕の感覚では風速15m/sだと即時撤収するレベルですね。突風などで30m/sくらいの風にさらされる可能性もあるかもしれないとして、最悪値を仮定しておきます。

風はタープの真横(幕体が最も風を受ける方向)から吹いて来るものとします。
通常タープの幕体は、斜めに張るものなので、実際にはこんなことはありえませんが、計算を簡単にするため、20m2のタープの片面に相当する10m2の幕体に対して垂直に(真正面から)風速30m/sの風があたることにしちゃいます(下図右側)。

そして、10m2の幕体が受ける風圧を、4本のガイロープで支えると考えます。(僕が所有しているこのサイズのタープだと5本の張り綱で支えることになります。)

風圧計算モデル

この時点でかなりありえないモデルではあるのですが、タープの幕体が受ける力の最大値はこのくらいになるかもしれないという感覚がつかめればいいと思います。

では、上記のモデル(仮定)で、張り綱にかかる荷重を計算してみます。

まず、風速とその風によって1m2(1メートル四方)の面積が受ける風圧は以下の式でざっくりと求められます。

P = 0.06 ✕ V2
P : 風圧 [kgf/m2]
V : 風速 [m/s]

この式より、10m2のタープが受ける風圧は、

0.06 ✕ 302 ✕ 10(面積)= 540[kgf]

4本のガイロープで支えると仮定しているので、ロープ1本あたりにかかる荷重は、

540 ÷ 4 = 135[kgf]

つまり、10メートル四方の幕体が秒速30メートルの風に正面から当たると、ガイロープ1本に掛かる荷重は135kgとなります。

ちなみに、もっと実際に近い風速で同じ計算をした場合のロープ1本あたりの荷重は以下となります。
風速10m/s : 15kgf
風速15m/s : 33.8kgf
風速20m/s : 60kgf
風速25m/s : 93.8kgf

もちろん、この135kgfというのは上で仮定したようにありえない状況でかかる荷重です。
ファミリーキャンブで使用するガイロープは、風速30m/sの強風に耐える必要はありませんよね。先に述べましたが、その前に切れてくれたほうが安全とも考えられます。

ペグが抜けたり膜体やポールの破損を防ぐためには、135kgfの荷重に耐えるようなロープでは丈夫過ぎるとも言えますね。

ガイロープの劣化

それでは、例えば90kgfくらいで切れるロープがちょうど良さそうだと考えるとします。
そこで、スペックが耐荷重90kgfのガイロープを買えばいいのかというと、そういうわけでもありません。

ガイロープのスペックに耐荷重が書いてあったとしても、それは新品時のスペックです。更にいうと、耐荷重なんて試験の方法次第で数十kgf違ってもおかしくありません。
また、メーカーのスペック値が、試験結果そのままなのか、あるいは試験結果にある程度の余裕をもたせているのかもわからないわけです。

残念ながら、そもそも狙った荷重でちょうど切れてくれるガイロープなんて無いんです。

そういうわけで、以降はあくまでも目安として考えてください。

まず、新品の(劣化のない)ガイロープでテントやタープを固定するとします。このとき、荷重に耐えきれずにロープが切れるとしたら、どこが切れるでしょうか?
通常は負荷が集中しやすい結び目か自在の位置になると思います。

結び目・自在による強度の低下

詳しくは別記事で解説していますが、ロープの結び目は強度が落ちます。

例えば、もやい結びの部分の強度はで結び目がない場所の7割弱、8の字結びだと7割強となります。

自在による強度の低下はどの程度か分かりません。自在によると思いますし、データを見つけることも出来ませんでした。
通常は、滑らない自在ほどロープにかけている負担は大きいと予想します。

ここでは、自在よりもロープのよじれが強い結び目のほうが強度低下が大きいということにします。
そうすると結び目の強度は通常の7割程度ですから、例えば90kgfの荷重に耐えるには、耐荷重が約130kgfのロープが必要ということになります。

その他の要因による強度の低下

結び目以外に強度が低下する要因といえば、ロープ自体の劣化があります。

これも別記事で解説したように、紫外線による劣化もありますが、大きいのは自在などの使用によりロープが擦れて劣化することだと思います。

毎日テントで生活するのでもない限り、最近のガイロープであれば紫外線による劣化よりも自在などによる物理的なダメージによる劣化が大きいと思います。

こればかりは、表面が毛羽立ってきたら交換する人もいますし、気にせず切れるまで使っちゃう人もいますね。強度の低下を数値で表すのは難しいと思います。

必要な耐荷重

それでは、実際に使うガイロープの耐荷重はどれくらいが良いのかということになると、これはもう使うテントのサイズ、固定するガイロープの本数や固定方法次第ですので、決まった数字は出せません。

ただし、ファミリーキャンプ向けのテントやタープ(少なくとも僕が使っているテント・タープ)で考えると、これまでの内容から80kgfくらいの荷重に耐えるガイロープで十分ではないかと僕は思います。

結び目や劣化のことを考えて、この荷重の1.5~2倍の余裕を見ておくと、大体耐荷重が120~140kgfのガイロープが必要ということになる計算です。

最近は、耐荷重250kgfのパラコードがよく使われていたりしますが、僕はテントやタープのガイロープとして使うには、こういった直径4mm程度のパラコードの耐荷重は高すぎだと思っています。

ガイロープの視認性

注意深い人なら問題ないのかもしれませんが、僕なんかはキャンプ場で張り綱に足を引っ掛けて転びそうになることがよくあります。

コケて擦りむくくらいならいいのですが、例えば火のついたランタンをぶら下げているポールの倒壊とうに繋がるとかなり危険ですよね。

自分の気に入った色を優先するか、安全のために視認性の高いものを優先するかは悩ましいところですが、ここでは視認性という視点でどういったものがよいのかを解説します。

ガイロープの色

これはおそらくキャンプサイトの状況(芝か土かなど)にも関係してくるのだろうと思いますが、僕の経験上ではやはり視認性が良いのが、黄色、オレンジ色、ピンク色などの明るい色です。
赤や白もよく見かけますが、これらも視認性は良いほうだと思います。

一方、最近テントやタープでも流行りのミリタリー系やサンドカラー系のものは視認性は悪いです。(ミリタリーだし当たり前なんですけど。。)

テントやタープにガイロープのカラーも合わせるかどうか、悩みどころですね。。
特に小さい子供はよく引っかかるし、僕みたいに大人でも引っかかるひともいるので、家族構成やキャラクターも考えて決めるのが吉かと思います。

反射(リフレクティブ)ガイロープ

光を当てると反射する糸を編み込んであるロープです。

夜間の視認性は抜群です。適切に使えば(TIPS参照)暗闇に光って見えるので、むしろ昼間よりはっきりと分かります。

リフレクティブロープ

この写真のフラッシュ有り撮影で白くなっている部分が反射糸です
ここが夜間光を反射して闇にロープが浮き上がって見えます

可能であれば、反射タイプのガイロープを使いたいところです。

通常は、再帰反射材と言って、光が入ってきた方向に反射する糸を使っています。
夜間に暗い中車で走っていても、道路標識はすごく明るく見えますよね。あれも再帰反射でヘッドライトの光を照らした車の方向に反射しているんです。
再帰反射
なので、反射ガイロープを使う際は、ヘッドライトを使うべきです。ヘッドライトは目の近くから光を照射するので、再帰反射光がよく見えるんです。
腰のあたりに手持ちしている懐中電灯だと、反射光はあまり見えず、反射ガイロープの視認性はかなり落ちてしまいます。

キャンプ場で使うヘッドライトは、遠くまで照らせるタイプ(これは使い方によって他の人の迷惑になる)より、以下のような比較的広範囲を照らすタイプのほうが使いやすいです。

蓄光タイプのガイロープ

蓄光タイプのものは効果ありません。

蓄光とは、イメージで言うと、明るいうちに光(のエネルギー)を蓄え、暗くなるとその光を放出するのでほんのり光るようなものです。「夜光」などとも言いますよね。

蓄光パラコード

カメラのオート機能で撮影すればこのようにはっきり写りますが、
実際にはこんなに明るく見えるわけではないです。

この蓄光ですが、例えば明るい部屋の電器のスイッチを突然切ったときなどには意味があります。暗くなってからもしばらくは発光しますので。
ところが、普通のガイロープなどにある蓄光の効果はせいぜい15分くらいです。
実際に使ってみると、夕方からだんだん暗くなる間も光を放出してしまうので、完全に暗くなった頃には光も放出しきっちゃっているような感じです。

蓄光のガイロープは夜間のガイロープの視認性向上の効果はありません。
ただ、普通のガイロープとして使う分にデメリットはないので、蓄光タイプにありがちなパステル調のカラーが好きで使うなどはあると思います。

結局ファミリーテント・タープ向きのガイロープはどんなもの?

まず、耐荷重(強度)について、人それぞれ考え方があると思いますが、僕はざっくり100~150kgfくらいが良いと思っています。

とはいえ、多くのテントメーカーはガイロープの耐荷重を公開していませんね。そのためガイロープの強度の目安としてロープの太さで判断する人が多いです。
実際のところ、素材や糸の編み方等で耐荷重はかなり変わってくるので、太さはあまり当てにならないのですが、なんとなく以下の目安かなあと思います。
※ かなりいい加減な目安であることはご了承ください。
※ ファミリーキャンプでよく使われる、普通のナイロンやポリエチレン素材の目安であり、ダイニーマなどのスーパー素材系のものはまったく当てはまりません。

  • 直径2mm : ファミリーサイズのテントやタープのメインポール向けにはちょっと強度が足りないと思う。細いので結んだり解いたりもやや面倒で扱いづらい。(内心これくらいでもいいかもと思っているが見た目がいかにも心もとないので使う勇気がない)
  • 直径3mm : 多くの場合これくらいがちょうどよい。これでもおそらくロープが切れる前にポールが折れたり幕体が裂けることのほうが多い。(僕の場合2.5mmで突風によりポール破損)
  • 直径4mm : ほったらかしで長く使うならこの太さくらいある方がいいかもしれない。日本のテントメーカーはファミリーサイズだとこの太さのガイロープが付属していることが多い。パラコード等の耐荷重250kgfはオーバースペック。

いずれにしても、ガイロープは消耗品と考えて、予備になるものを常に用意しておくのがいいと思います。僕の場合、キャンプには常に4mmのパラコードを持っていきます。ガイロープとしてではなく、洗濯物を干したり物をぶら下げたりと、あれば何かと便利なので。。

色については、視認性の高い明るい色がいいと思いますが、こればかりはテントやタープとの相性を考えたい人も多いと思うので、なんとも言えませんね。僕なんて色とか関係なく足を引っ掛けますので。。

ただし、夜間については反射タイプのものがあれば、そちらを選んだほうがいいと思います。蓄光タイプは視認性という意味では役に立ちません。

そして、夜間一番目立つのはこれだと思います。僕はこれを計8個使っています。すべてのガイラインには足りないので、通り道になるロープのみに使う感じです。

百均にも似たような物があるのにこれは馬鹿みたいに高いのですが、色がやさしめの電球色(百均のは赤とか青とかのうるさい色でキャンプ場では使いにくい)で夜間つけっぱなしでも近所のサイトへの迷惑感がないのが良いです。
実は今、良さそうだと思っている張り綱があるんですけど、メーカー在庫切れで入手出来ていないんです。もし入手できて、それがいいものだと思ったらこのブログで紹介するかもしれません。
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