炭火バーベキューで焼いた肉や野菜って格別に美味しいと思いませんか?
家でフライパンを使うのとはまるで違いますよね? 炭火を使うとなぜ味(食感)に違いが出るのでしょう?
ここでは、主に炭火とガス火の違いに着目して説明します。
巷にはびこるこの説は本当?
炭火を使うと美味しくなる理由を説明する前に、まずは世の中でよく言われているけど、実際のところどうなの? っていう説の真偽をいくつか考えてみます。
遠赤外線が食材内部に浸透する?
これは過去に、一部の暖房器具等のメーカー等が「遠赤外線ヒーターは体の中から暖まる」などという根拠のない宣伝文句が広めた誤解に基づく間違った説です。
※ 今はまともなメーカーでそのような(遠赤外線が体の芯から温める的な)機能を謳う暖房機器はありません。たぶん。。。
一般的な食材の場合、遠赤外線が内部に浸透するのは0.2mm以下です。
金属を除く殆どの物質は遠赤外線をよく吸収します(金属は反射してしまいます)。
そして、よく吸収してしまう(吸収されたエネルギーが熱になる)ため、内部まで深く浸透はしません。
つまり、遠赤外線が直接温めるのは食材の表面付近だけです。内部はその表面から熱が(熱伝導により)伝わることにより温度が上がります。
これは人体の場合の例ですが、赤外線が人体に浸透する深さを示すグラフが以下のものです。
遠赤外線は概ね200um(ミクロン)、つまり0.2mm以上浸透しないことがわかるかと思います。
近赤外線の領域でもせいぜい6mmと言ったところですね。
そもそも、人体(その他多くの食材の)の中で最も多い成分である「水」が遠赤外線を通さないので、この結果は当然と言えば当然です。
強火で先に表面を焼き固めると肉汁・旨味が閉じ込められる?
これについては信頼できる研究結果等を見つけることができませんでしたが、最近は否定されつつある説かと思います。
いろいろ調べて、なんとなくわかった気になる情報は、過去に所さんの目がテンで行われたという実験です。
この番組を実際に見たわけでは無いので、上のリンクのページにある情報しかありませんが、必要な部分を抜き出して要約すると、以下のようなことが判明しています。
実験に使った牛肉を違う温度で焼いたところ、60℃以上で焼くと肉汁が多く出てしまう。100℃まで上がるとどんどん肉汁が出てしまう。
肉の表面に強火で最初に焦げ目をつけるより、最後に強火で焦げ目を付けたほうが肉汁が残っている。
肝心の「なぜ」についてまでは検証されていないようですが、ここでは「肉の表面に強火で最初に焦げ目をつけるより、最後に強火で焦げ目を付けたほうが肉汁が残る」という結果となっています。
単に牛肉の内部が脂肪が溶けはじめるあたりの温度(50℃弱)を超えると肉汁が出やすくなるっていうだけなんじゃないかって気もしますが。
※ 実験では特定の肉しか使っていないようなので、必ずしもこれをそのまますべての肉に当てはめることはできないかもしれません。
その一方で、強火で焼いた表面が肉汁を閉じ込める説を立証できるようなまともな(ちゃんと科学的な根拠なり実証結果なりを示している)情報は見つかりませんでした。
ガスの直火で焼いたものはガス臭くなる?
まず、そもそもガス自体に臭いはありません。
なぜ臭うのかと言うと、ガス漏れなどに気づきやすいようにあえて嫌な匂いをつけているからなのだそうです。
もちろん、その臭いは完全に燃焼するとなくなります。そうしないと、キッチンは臭くてたまらないし、本来の目的だあるガス漏れの気づきには使えないですからね。
それでは、ガスで焼いたからと言って臭くなるという説は全くの嘘なのでしょうか?
あながち嘘とも言えないんです。実際、臭くなるケースもあるのです。
よく言われるのが、ガストーチで料理を炙るときにつく臭いです。
先程、臭いは「完全に燃焼」するとなくなると言いました。これはその通りです。
ところが、ガストーチで料理を炙る際、トーチを食材に近づけて使うと燃焼する前の一部のガスが食材に触れることになります。そこで燃えて無くなる前の臭いが食材に移っちゃうというわけです。
コンロやグリルのガス火は完全に燃焼させますので、理屈上は臭いが食材につくようなことはありません。
一方、食材に直接炎を当てる炙り調理では、使い方によって(バーナーを食材に近づけすぎるなど)は臭いが食材に移ってしまうことがあるということですね。
炭火の特徴
熱の伝わり方が違う
焼き上がりに違いの出る一番大きな要因がこれだと思います。
炭火とガス火(あるいは鉄板焼き)では、食材が加熱されるメカニズムに違いがあります。
熱の伝わり方には、熱伝導・対流・輻射があります。それらの違いを簡単にまとめると、以下のようなものです。
- 熱伝導 : 温度が異なるもの同士が接触している場合に、温度が高いほうから低いほうへ熱が伝わる
- 対流 : 熱を持った流体(例えば空気や水など)が移動することにより熱が伝わる(例、上昇気流など)
- 熱放射(熱輻射) : 熱エネルギーが電磁波(マイクロ波、赤外線など)によって伝わる
そして、炭火とガス火の大きな違いは、「炭火は主に熱放射で熱を伝える」のに対し、「ガス火や焚き火などの直火では主に対流で熱を伝える」というものです。
炭火は炎をほとんど出さず、(遠)赤外線を多く放出するため、ガス火に比べて熱放射で伝える熱量が多くなります。
例えば、バーベキューなどの時に、炭火に近づくだけで顔が熱くなりますが、ガスコンロなどの場合、炎に同じくらいの距離まで近づいても、そのようなことはありませんよね?
近づいただけで顔が熱くなるのが、炭火から放射された赤外線による加熱のためなのです。
この熱の伝え方の違いが、食材を焼き加減に大きく影響します。
炭火 : 放射熱で加熱
炭火の場合、食材に赤外線があたっている部分が加熱されます。
この加熱は、赤外線のエネルギーにより、材料中の分子が振動することにより、食材自体が熱を発するというものです。
炭火よりも身近な例では電子レンジ(電子レンジは赤外線ではなくマイクロ波の輻射です)がおなじ原理で加熱しています。
そのため、炭火焼の場合、食材には赤外線による熱が常に供給され続けます。
赤外線は、食材にかなり良く吸収されるため、食材の赤外線があたっている部分の表面は一様にムラなく焼けることになります。
赤外線に当たった瞬間から、食材には熱放射による熱がどんどん供給されつづけるため、食材表面の温度は一様に温度が上がります。
そして、食材の表面付近で発生した熱が、温度が高いところから低いところへと伝わる熱伝導によりより温度の低い内部に移動していき、食材の内部を温めるというわけです。
内部まで火が通りやすい印象が持たれるのは、食材表面に供給される熱が(食材の温度に依存するガス火などと違って)一定のため、内部へ伝導する熱量が比較的高くなることが理由と思われます。
また、赤外線があたっていさえすれば加熱されるため、多少の凹凸があっても表面全体をムラなく焼くことができます。
ガス火等 : 対流、熱伝導で加熱
ガス火等による食材の加熱は、主に食材の内外の温度差による熱伝導によって行われます。
つまり、熱が温度が高いところから低いところに移動するわけです。
例えば、熱い鉄板に食材をのせた場合、鉄板に触れた場所から食材と鉄板の温度差に応じて熱が伝わります。
直火の場合は、対流によって運ばれてきた熱い空気と食材が触れる場所からの熱伝導になります。
ここで、熱伝導の性質を考えると、供給される熱は食材の温度によって変わります。
つまり、食材が加熱されれば加熱されるほど(食材と熱源の温度差が小さくなるため)供給される熱は少なくなります。例えば温度が200℃の鉄板においた食材は、その温度が200℃を超えることはありません。
また、熱伝導は外部と触れている部分との温度差によって供給される熱の量が変わるため、表面に凹凸がある食材を鉄板に置く際など、鉄板に触れる場所とそうでない場所に焼きムラができることなります。
このように、炭火とガス火等による加熱のメカニズムの違いにより、焼き具合に違いが出てきます。
常に一定の熱を供給する赤外線による加熱が、食材の外側を高温でカリッと、かつ中まで火を通しつつもジューシーに仕上げることになり、多くの人がおいしく感じる焼き加減になるものと思われます。
香りの違い
炭火焼きの香りが好きだという人は多いと思います。
炭火風味の焼肉のタレなんて言うのもあるくらいですからね。
この炭火の風味(香り)は、主に食材から滴る脂分などが炭に落ちることによって出てくる煙によるものです。
僕の場合は、煙が多すぎるのはあまり得意ではないのですが、ほんのちょっとだけ燻されたものはやはりおいしいと感じます。
それと、食材そのものにつく風味のほかに、焼いているときに漂ってくるこの香りが食欲を刺激しているようにも思います。
ガス火は水分を含む
ガス火は水分を含むから、カリッと焼けない。っていう説もよく聞きます。
これは僕は個人的には疑問です。
べつにガス火でもカリッとは焼けると思うんですよね。
まず、「ガス火は水分を含む」これは間違いありません。
炭の主成分は炭素(C)なので、燃えると二酸化炭素(CO2)になります。
一方、ガスの主成分である、メタン・ブタン・プロパン等は、炭素(C)と水素(H)の化合物なので、燃えると、二酸化炭素(CO2)と水(H2O)になります。
それでは、ガス火に含まれる水蒸気が食材をべちゃべちゃにするのかというと、それはどうかなあと思っています。
食材が冷たい最初のうちは、確かに多少結露があると思いますけど。。
そもそも水蒸気を含む空気で加熱するとべちゃべちゃになるんだったら、シャープのヘルシオなどの加熱水蒸気による調理でから揚げがカリッとできる理由がわかりませんよね?
まとめ
炭火焼きがガス火等を使う場合よりもおいしくなる理由をまとめます。
炭火は赤外線の輻射熱によって食材を加熱するため、短時間で食材の表面をムラなくカリッと焼くことができる。
炭火に特有の風味がおいしく感じられる。
そして、ガス火は水蒸気を含むので、カリッと仕上がらないという説もある。
個人的には、「炭火で焼いてる!!」っていう気分で美味しさがアップする部分も結構あると思っています・
もちろん、炭火の場合は火加減の調整が簡単でない等のデメリットもあります。
以下の記事では、炭火を使う際のコツについても少し述べているので、興味のある方は参照してみてください。