ダッチオーブンの特徴と選び方

キャンプギア

キャンプ料理が一気に充実する、ダッチオーブンですが、材質・サイズ・形と様々な選択肢があります。

本記事では、材質ごとの特徴、適切なサイズ、形状など、ダッチオーブンを選ぶ際に抑えておきたいボイントを解説していきます。

最後にはおまけとして、巷にはびこるダッチオーブンに関する怪しい説をいくつか検証してみました。

ダッチオーブンとは?

金属製の鍋で厚みがあり、本来は蓋の上に炭火を置いてオーブンとして使えるようになったものです。

蓋と底面両方からの加熱に加え、金属に厚みをもたせる(熱が全体に広がりやすくなる)ことで大抵の普通の鍋よりは鍋全体の温度を均等に近づけることができるため、オーブンとして使うのに適しています。

昔はアメリカ西部開拓民に好んで使用されていたらしいですが、少なくとも最近の日本ではほとんどキャンプでしか見ることがないものですね。

ちなみに、ダッジオーブンじゃなくてダッチオーブン(Dutch oven)です。Dutchってオランダのことだと思いますが、なぜオランダなのかは知りません。

ダッチオーブンの選び方

ダッチオーブンの材質

多くのダッチオーブンは鋳鉄(ちゅうてつ)製ですが、日本でメジャーなものの中には、黒皮鉄板(くろかわてっぱん)製、ステンレス製があります。

ここではそれぞれの材質がもつ特徴やそれぞれの手入れの方法などについて紹介します。

熱伝導率と比熱

まず、ダッチオーブンの本来の役割である、料理をするための性能について考えます。

ここで重要な指標は、熱伝導率と比熱と言うものです。

熱伝導率というのは、熱の伝わりやすさを表します。熱が伝わりやすいということは、鍋に火をかけた際、鍋全体に熱が広がりやすくなるということです。つまり鍋の温度にムラができにくいということです。

一方熱伝導率が低いと、鍋が火にあたる部分から周辺に熱が広がりにくいため、温度にムラができやすくなります。火に当たる部分だけが熱くなるので、食材が焦げやすかったりします。

ダッチオーブンの機能を考えた場合、内部の温度分布を均一に保ちやすい、熱伝導率は高いものが適していると言えます。

次に比熱についてですが、これはちょっとイメージしにくいかもしれません。比熱というのはその物質1gの温度を1℃上げるのに必要な熱量のことです。これはその物質1gの温度が1℃下がるときに放出される熱量と同じです。(エネルギー保存則)

かんたんに言うと、比熱とは、その物質が貯め込むことのできる熱量の容量を表します。

つまり、比熱が高い物質は温まりにくく冷めにくいため、火をかけたり止めたりした際の温度変化が穏やかになります。

ダッチオーブンに使う場合、温度が安定しやすい比熱の高い素材が適していると言えます。

誤解されていることがあるようですが、熱伝導率と比熱はまったく別の性質です。
言い換えると、熱の伝わりやすさと、温まりやすさ/冷めやすさは別のものです。なんとなく、「熱が伝わりやすい=温まりやすい」って気がしちゃうのですが、そうでもないんです。例えば、アウトドアでつかわれるチタンの鍋ですが、軽いのはいいけどすぐ焦げるって言われます。
これは、チタンが「熱を伝えにくいのに温まりやすく冷めやすい」っていう性質をもつため、火があたるところばっかりやたら高温になって、それ以外のところに熱が届きにくいためなんです。

それでは、ダッチオーブンに使われる各素材について、熱伝導率と比熱はどのくらいなのかを見てみます。

以下、引用元の表から抜粋したものです。

(注) 必要な部分のみ抜粋したものです

物質名比熱[W/mK]熱伝導率[kJ/kgK]
鋳鉄 (C4%)0.41952
炭素鋼 (C1%)0.47343
ステンレス0.46016

株式会社八光電機各種物質の性質:金属(個体)の性質より抜粋引用

※ 黒皮鉄板のダッチオーブンはおそらく炭素鋼かと思います

これらの性質は、炭素の含有量(表中ではC4%などと書いてあるもの)によって変わってくるので、上の値はざっくりした目安だと思ってください。各社のダッチオーブンに使われている材質の特性を示すものではありません。

ここから判断できるのは、鋳鉄、黒皮鉄板の熱伝導率と比熱はだいたい同じくらいで、ステンレスだけ熱伝導率が低いということです。

そうすると、ステンレスのダッチオーブンはやめておいたほうがいいのかというと、そうでもないんです。ステンレス製のダッチオーブンには鉄のものに比べてはるかに手入れが楽という、大きなメリットがあるのです。

そもそも、材質自体の特性がそのままダッチオーブンの性能に直結するわけではありません。例えば、同じ比熱でも鍋が分厚いほど蓄えることのできる熱量も大きくなりますよね。
材質の特徴は、あくまでも大雑把な目安と考えればよいかと思います。

最近は、(蓄熱性は低いはずですが)薄くて軽いことを売りにする高級鋳鉄ダッチオーブンもあるくらいです。
岩鉄鉄器 ダクタイルダッチオーブン (厚み1.6mm)
スノーピーク 和鉄ダッチオーブン (厚み2.25mm)
ちなみに、コスパ抜群で知られるニトリのダッチオーブンも板厚がやや薄手で、これはどちらかと言うと(安物だからしょうがない的な)欠点として捉えられています。さらに薄くて価格10倍のスノーピークはかなりの絶賛を浴びているんですが。。。
きっと、この辺の細かな性能よりも、気分とか使用感で、美味しく感じるかどうかが大きく影響されるんでしょうね。

手入れ

ダッチオーブンの普段の手入れは、材質によって違います。

以下に、手入れが簡単な順にその方法を説明します。

ステンレス製ダッチオーブン

これは普通の鍋と同じく、使い終わったら洗剤で洗って自然乾燥させればいいだけです。

ステンレスは錆びにくいので、家庭で使う一般的な鍋と同じ扱いで大丈夫です。

ステンレスのダッチオーブンは錆びないので、前日に作ったカレーや汁物などをそのまま次の日までおいておいたりできます。
これは比較的錆に弱いほかの2つにはない、大きなメリットです。

それと、これはメリットなのかデメリットなのか微妙なところですが、焚き火で使った際、ステンレスのダッチオーブンは煤(すす)で真っ黒になります。これをきれいに落とすのは結構重労働です。金たわしやクレンザーを使ってゴシゴシあらうことができるので、きれいにはなるのですが。。

ほかの材質でも煤がつくのは一緒なんでしょうが、ステンレスは特に目立ちます。

黒皮鉄板製ダッチオーブン

これも使い終わったら普通に洗うことが出来ます。ただし、表面の黒皮を傷めないように、金タワシなどはつかえません。

これは鉄製なので、ステンレスと違って錆びないようにケアしてやる必要があります。

具体的には、洗剤等で洗った後、できれば熱するなどして早めに完全に乾かします。その後、表面を空気中の水分から保護するために全体に薄く油を塗る必要があります。

ちょっと手間に感じるかもしれませんが、この後の鋳鉄製のものに比べると格段に手入れは楽になります。

鋳鉄製ダッチオーブン

これが本来のダッチオーブンではあるのですが、かなり錆びやすいので、とにかく手入れは面倒です。

まず、シーズニングという手法で表面を保護する必要があるのですが、これは使用するたびに毎回必要な手入れではありませんので、ここでの説明は省略します。

普段の使用後の手入れですが、まず洗浄はちょっと気を使います。
鋳鉄表面に出来た皮膜をいためないよう、ステンレスのように思い切りゴシゴシあらうような事はできません。通常は湯を沸かして汚れを取るなどの優しいやりかたをする必要があります。

洗剤を使っては行けないとする意見もありますが、きちんと皮膜を作っておけば優しく洗うぶんには大丈夫です。

通常は、使用後に水洗い等で汚れをざっくりと落とします。さらに汚れを落としたい場合は、水をいっぱい張り、沸騰させて洗浄します。

洗浄後は、火にかけるなどして水分を完全に乾かし、全体に薄く油を塗ります。これは黒皮鉄板と同じく、表面を保護するために必須の手入れとなります。
鋳鉄の場合、油を塗ることでその表面にできる被膜を強化するという役割もあります。これはちょっと説明が長くなるので、別記事で紹介しようと思います。

この鋳鉄ですが、とにかく錆びやすいです。煮物やスープなどは、調理後すぐに取り出して上に述べた使用後の手入れをしたほうがいいと思います。

僕は、以前鋳鉄製のダッチオーブンを使っていたのですが、スープの残りを一晩放置するという失態を犯し、錆びさせてしまいました。普段の手入れがややいい加減だったので、たぶん皮膜が不十分だったのだと思います。
※ 特に塩分の多い味噌汁や酸性のもの(トマトソース等)などは、錆に強くない黒皮鉄板や鋳鉄のダッチオーブンで作るのは避けておいたほうがいいと思います。
手間がかからないのはステンレス製

このように、主にサビのケアという面で、各素材の手入れの手間は大きく変わります。

手間という面では、ステンレス製が圧倒的に楽なものではありますが、鋳鉄製のダッチオーブンを手入れする手間自体を楽しむという人が多いのも確かです。

特に汁物を作る場合、特別に気を使う必要がないのもステンレスとなります。汁物でも何でも、普通の鍋として使うことができます。
ただ、鋳鉄のダッチオーブンみたいに、見た目にアウトドア感がまるでないんですよね。雰囲気は鋳鉄の黒い感じが抜群にいいです。

味の違い

これは僕の主観でしかないのですが、鋳鉄製とステンレス製のダッチオーブンで、料理の味の違いはありません。

僕は黒皮鉄板のダッチオーブンは所有していたことがないので、ここでの比較は鋳鉄製とステンレス製の違いについてのみの比較です。
物性的(熱伝導率・比熱)には黒皮鉄板と鋳鉄は同じようなものなので、料理の出来も大きく変わることがないとは思います。

数値の上では熱伝導率に違いがあるのですが、出来上がった料理の味に関しては、少なくとも僕には違いがわかりません。

そんな僕にもわかるのは、油を塗って保存する方法は、次回の料理の味に影響することもある、ということです。

これは、あっさり系のスープなどを作ると明らかに違いがわかります。油を塗る鋳鉄製のオーブンでスープを作ると、油臭さがスープにうつります。僕はこれが好きではありませんでした。油分を使わないようなスープも、見た目からして油が浮いていたりします。

この点、ステンレス製のものは洗剤で洗ってそのままなので、何も問題はないです。

僕はダッチオーブンを大鍋としてたまに自宅でも使っています。(我が家で最大の鍋がダッチオーブンなので。。)
自宅で使うとよけいに普段の料理との差が見えてきちゃうので、この油のデメリットが気になりました。

 

ただし、鋳鉄からステンレスのダッチオーブンに乗り換えた際、炭火でオーブン料理をするときはステンレスのほうが内部の温度が上がりにくいみたいだなと感じました。

鋳鉄のダッチオーブンを使っていたときの感覚で炭火を置くと、料理に火が通るのに時間がかかるようでした。

ステンレスにしてからは、炭の量をちょっと増やしています。

炭も毎回全く同じものを使っているわけではなく、気のせいと言われればそうかとも思えるのですが、ステンレスの金属表面は、炭火の輻射(熱)をある程度反射してしまっているのではないかと想像しています。

価格

価格は、一般的にはステンレス>黒皮鉄板>鋳鉄 の順です。もちろん例外もありますが。。

特にステンレスは高価です。鋳鉄製はピンキリですが、大抵はステンレスの半額以下です。黒皮鉄板はその中間あたりですかね。

サイズ

市販されている多くのダッチオーブンのサイズはその直径が8インチ(約20cm)、10インチ(約25cm)、12インチ(約30cm)3種類です。

家庭で使っている鍋の大きさを考えれば、3〜4人家族であれば多くの料理には8インチがちょうどよいと思います。

ただし、ダッチオーブンの醍醐味である鶏の丸焼きやピザなどを楽しむにはちょっとサイズが足りないかもしれません。

大体1家族で食べ切れるような1kg弱くらいの鶏丸(鶏の丸焼き)なら10インチ、2kgの鶏丸なら12インチくらいがちょうどいいです。

8インチの場合、丸鶏よりも、手羽元や骨付きのもも肉をローストするのがいいと思いますよ。丸鶏よりも簡単で、ぶっちゃけ美味しくできます。

ピザやパンを焼いたりもしますが、このときは8インチだとちょっと1家族分には足りないかもしれません。

たまに大人数で使いたいとかであれば12インチのものがほしいところですが、さすがに12インチともなると結構重くて大きいです。やりたい料理だけでなく、普段の置き場所も考えておいたほうがいいでしょう。

僕が使っているのは12インチのものです。
12インチにしたのは、自宅でもたまに大きな鍋を使いたいことがあるので、それも兼ねてということで決めました。
そのせいで、1家族のキャンプではちょっと大きすぎて使いづらさを感じています。
最近は8インチのものが欲しくなっているのですが、また物を増やすと誰かに怒られそうだし、迷っているところです。。

形状

ダッチオーブンと言っても、その形状にはいくつかの種類があります。

脚の有無

今では少数派ですが、伝統的なスタイルのダッチオーブンには3本の脚がついています。

これは、焚き火や炭火の上にそのまま置くことができるので、特に毎晩焚き火で過ごしていた(勝手なイメージ)アメリカの西部開拓民には便利だったろうと思います。

ただ、残念なことに日本のキャンプ場のほとんどは直火(地面で直接火を燃やすこと)を禁じています。なので、ほとんどの人は下の写真のように焚き火台に金網をのせた上にダッチオーブンをのせます。これ、足があると邪魔なだけなんです。

ダッチオーブン

あるいは、トライポッド(三脚)にぶら下げて使います。昔はこうやって使う人が多かったのですが、最近は焚き火台がダッチオーブンをおけるように出来ていたりするので、重くてかさばるトライポッドを使う人は少なくなったように思います。

もちろん脚があるとガスコンロでもかなりじゃまになるか、まったく使えないかです。

こういったデメリットから、すくなくとも日本で使われている多くのものは、脚のないタイプです。
これは上記の理由から脚付きを使う人があまりいないからです。これなら焚き火台でもコンロでも使えますし、必要であれば五徳を下に置けば脚付きと同様に使えるため、用途は広くなります。

そういうわけで、主流なのは足のないタイプです。脚付きはちょっと日本のキャンプ事情に合わないんですよね。有名なLODGEのものは、脚付きタイプですね。LODGE以外で脚付きのものはあまり日本では見かけません。

蓋の形状

オーブンとして使うには、通常蓋の上に炭火をおきます。

このとき、普通の鍋蓋型だと炭が転がり落ちる可能性があり大変危険です。

そのため、キャンプなどで使うためのダッチオーブンの蓋にはヘリがついており、火のついた炭が落ちたり、蓋を開けたときに灰がオーブンの中に入ったりしないようになっています。

ダッチオーブン

 

一方、主に屋内で使うことを想定されているもの(こっちがダッチオーブンの元祖)は通常の鍋蓋型です。
本来屋内で使うためのものなので、このタイプには脚がついたものはありません。

 

クッキングダッチオーブン

 

こちらについては、今ではルクルーゼやストウブなどの、鋳鉄にホーローのコーティングをしたもののほうが取り扱いが楽でデザインも良いため主流(アメリカなんかではこれもダッチオーブンのくくりです)になっています。LODGEも鋳鉄むき出しのものだけではなく、ホーローコーティングのものも製造・販売(これは安いのでアメリカではかなり人気商品)しています。

 

ホーロー鍋

 

これらの他にも、縁はないけど蓋をスキレット(フライパン)として使えるアウトドア向けのダッチオーブンもあります。

ダッチオーブンの選び方まとめ

以下、僕の個人的な意見です。

まず、材質については、人それぞれ最適なものが違うと思います。

価格は高くてもいいし、キャンプの風情もあまりきにしないし、とにかく手入れが楽なものが良い → ステンレス製

以前はステンレス製といえばSOTOのダッチオーブンが唯一の選択肢でした。僕が今使っているのもこれです。

最近出てきた以下の製品には要注目だと思います。SOTOのダッチオーブンはこれにかなり食われちゃうんじゃないかと思います。

これはステンレスで、熱伝導率が高いアルミを挟み込む構造で、ステンレスの弱点であった熱伝導率の低さをカバーするというもので、ちょっといい鍋にはわりと使われている構造です。ダッチオーブンでこの構造を採用したのはこの製品が始めてだそうです。

手入れは楽な方がいいけど、ダッチオーブンとしての性能は十分以上であってほしいし、ステンレスはいくらなんでも高すぎる → 黒皮鉄板製

黒皮鉄板製のダッチオーブンといえば、現在ユニフレーム製の一択です。大変な人気でキャンプ場で見かける率No.1じゃないかな?

キャンブの雰囲気重視、ダッチオーブンを育てていく楽しみを味わいたい → 鋳鉄製

選択肢が最も多いのがこの鋳鉄製です。

鋳鉄製といえばLODGEロッジがいいという決まりがあるようで、いろいろなサイト等で盛んに喧伝されていますが、先に述べたようにLODGEのものは蓋にフチがあるものは脚もついちゃっていて、脚がないものは蓋の縁もないという具合で、日本のキャンプスタイルにはちょっと合わないところがあります。

コールマンのダッチオーブンは、(最近のこの価格帯のものは大抵そうですが)あらかじめシーズニングが施された状態で販売されているので、初回に使う前の面倒な手間が省けます。

リッドリフター(熱い蓋を持ち上げるための器具)や収納袋も含んでこの価格なので、かなりコスパ重視で、以前から多くの人に使われていて評判も良い商品です。

 

 

おまけ : ダッチオーブンにまつわる眉唾情報

科学よりも感覚にもとづいた説がまかり通りがちなアウトドアの世界において、ダッチオーブンもそのご多分にもれません。ここでは巷にまかり通るダッチオーブンに関する間違った(と僕が思っている)情報をいくつか紹介します。

ダッチオーブンには圧力鍋と同じ効果がある?

だれが言い出したのかわかりませんが、すくなくとも日本国内ではこの説がまかり通っています。
さすがにメーカーでこんなことを言っているところはないと信じていますが、販売者なんかになると、普通にこういう主張をしているところがあります。

その根拠としては、ダッチオーブンはフタが重いから、オーブン内に圧力がかかるからというものらしいです。これ、普通の鍋の蓋に石をのっければ圧力鍋になると言ってるようなものです。

僕は自宅で普通の鍋はもちろん、ダッチオーブンも圧力鍋もそれぞれたまに使います。
使ってみればわかることなんですが、鍋として使う分には、ダッチオーブンは普通の鍋とほぼ同じです。圧力鍋とは全然違います。

ダッチオーブンのフタでどの程度圧力が変わるのか、ちょっと計算してみましょう。

まず大気圧(1気圧)ってどのくらいの圧力なんでしょうか?

大気圧は、ざっくり言うと1kgf/cm2です。これは1cm2あたりにかかる重さが1kgということです。例えば、直径30cmの円形のフタにかかる重量は、以下の式で計算できます。

15x15x3.14x1kg=706.5kg

直径30cmの蓋には実に700kg以上の圧力がかかっているということです。

仮に、フタの重さが5kgとしても(ここまで重い蓋はないと思いますが。。)圧力の違いは1%にも満たないということです。

もうちょっと真面目に計算すると、直径30cm、重さ5kgの蓋を持ち上げることのできる圧力は、以下のようになります。

1.033kgf/cm2(1気圧)+ 5kg/(15*15*3.14)cm2 = 1.041kgf/cm2

この圧力で蓋が持ち上がってしまうので、鍋の内部の圧力はこれ以上高くなりません。

kgf/cm2なんてちょっと馴染みがないので、天気予報で馴染みのあるヘクトパスカル(hPa)に換算してみます。

1.041kgf/cm2 = 1020.9hPa

この1020.9hPaという値は、ちょっと気圧が高めくらいの感じです。もっと気圧が高い日もザラにあるレベルです。
例えば、この程度の圧力の違いでは水の沸点は0.3℃くらいの違いしかありません。これで料理の味に差がでるとは思えません。そもそも気圧が高い日と低い日の差より小さな違いしかないわけですから。。

ちなみに、圧力鍋の内部の気圧は1.5-2.0気圧になります。これは水の沸点がだいたい120℃くらいになる圧力です。

ダッチオーブンが蓋の重みで圧力鍋と同じような効果を発揮するなんて言うのは間違いです。

とはいえ、料理の味は雰囲気で3割増しになるというものですから、ダッチオーブンで調理した料理が美味しいと感じる気持ちはわかりますけどね。

ダッチオーブンは食材の旨味を凝縮する?

まあこれは、単に美味しい料理を「旨味が凝縮されている」と表現しているだけでしょうけど。。

食材の旨味を逃さないと言うならまだありかも思います。実際、普通の鍋と同様にダッチオーブンでも旨味が外に逃げるようなことはありません。

旨味というものは普通の調理の温度では揮発しませんから、外に出ようがないんです。

※ 香味はまた別でこれは揮発します。だから香るんですね。。

旨味を凝縮させる(濃くする)には、通常水分を蒸発させる等により旨味の濃度をあげてやるものです。

ちょっとこれに関連して、ダッチオーブンやその他の鋳鉄製の鍋によくあるのが、セルフベイスティングリッド(Self-basting lid)と言うものです。

Self-basting lid

これは蓋の裏側の様子です。
全面にわたって丸い突起がありますね。(商品により丸い突起でなく同心円状など、他の形状の突起を持つものもあります。)

水蒸気が比較的温度の低い蓋に触れて液化して水滴は、この突起から下に落ちるようになるため、水滴が食材にまんべんなく垂れるようになります。(これがないとほとんどの水は鍋の縁を伝わって落ちます)
そのため、食材が乾燥せずにしっとりとした状態を保つようにする効果があります。

これについても、旨味が凝縮された水滴を垂らして食材に旨味を染み込ませるという説がありますが、まあそんなことはありません。この水滴はほとんど水蒸気が液化しただけのただの水です。旨味は水と一緒に蒸発したりしませんから。

シャープの電気鍋の蓋にもこれがついていますが、「旨みドリップ加工」なんていうかなり際どい名称をつけていますよ。でも、実際に旨味をドリップするなんて、一切言っていないんです。これきっと分かっててやってますね。。。

こんなもの蓋についている水滴をなめてみればすぐわかることなのに。。 例えば塩水を蒸発させたとして、その水蒸気を液化した水をなめてもしょっぱくないのと一緒ですね。

ブラックポットを形成するのは酸化膜? 炭素の膜?

鋳鉄製のダッチオーブンをきちんと手入れしながら長年使っていると、表面に黒くて油がよく馴染む層が形成されてきます。鍋全体がこの層で黒光りするようになったものを「ブラックポット」といい、これはキャンパーの憧れの的になっていると言うキャンパーもいます。

僕は後述する誤解のせいで、鋳鉄のダッチオーブンを持っていたときも、ブラックポットなんていう気持ちの悪い鍋にだけはしたくないと思っていました。

この表面に形成される皮膜についてよく聞くのが、この被膜は酸化膜であるとする説です。これも誰が言い出したのかわかりませんが、Wikipediaにもこんな記載(2020年6月時点)があります。(Wikipediaのこのページには先の圧力鍋説もかいてましたよ。。。)

「ダッチオーブン」として製造販売されている鋳鉄製の深鍋の愛好者は、多くの場合、「シーズニング」(en)と呼ばれる独特の作業を行う(一般的なシーズニングの方法は後述)。これは意図的に鍋に黒錆四酸化三鉄皮膜)を発生させることで、鍋の腐食を防止する技術である。他地域の鋳鉄製の深鍋の使用者はこうした作業を行わない(毎日のように使う鍋であれば、使用後に空焚きして乾かしているうちに放っておいても黒錆びがつく)。

シーズニングによって黒錆びが発生したダッチオーブンの中でも、長年の使用によって重厚な黒錆びが付着しているものは「ブラック・ポット」と呼ばれて美的鑑賞の対象になることがある。

Wikipedia : ダッチオーブンより引用

まあこれは無いんじゃないでしょうか? 黒錆が分厚く成長して、ザラザラな表面がすべすべになるなんて、いくらなんでもそんなことなさそうに思います。

僕がこれじゃないかと考えていたのが、「これは油や汚れ等が熱により炭化したものがこびりついて、それに油が染み込んだりしていい感じにテカテカしているもの」という、気味の悪い説です。

僕が当初ブラックポットを気持ち悪いと思っていたのは、こんな説を信じていたからですね。

ところで、本当のところは一体何なのか、色々調べた結果わかったこと、それは「ブラックポットを形成する膜は油が重合化したもの」と言うものです。

わかってしまえばなんてこともなく、LODGEのサイトにも以下のようにサラッと書いていました。

What’s the science behind seasoning?
When oil is heated in cast iron, it bonds with the metal through a process called polymerization, creating a layer of seasoning. With regular use, your cast iron cookware will develop a strong, durable layer of seasoning that becomes more resistant to rust and more non-stick — it only gets better over time.

LODGE : All About Seasoningより引用

訳 :
シーズニングとは科学的にどのようなものなのか?
鋳鉄上の油を熱すると、重合というプロセスを経て鋳鉄と結合し、シーズニングの皮膜を形成します。鋳鉄製の調理器具は、定期的に使用することにより、サビに強く焦げ付きにくい、強固で耐久性のある被膜を作り上げていきます。このように使用を重ねることで、この被膜はより良いものになっていきます。

つまり、プラックポット/鋳鉄ダッチオーブンの皮膜の正体とは、油の重合体であるということです。

重合体と言ってもイメージが沸かないと思いますが、ここでの重合体は「ポリマー」と同義です。

油のボリマーとはどのようなものかというと、たくさんの油の分子同士が結合して大きな塊になったようなものだと思ってください。

バラバラだった油が結合するので、それはもう液体ではなくカチカチの個体になります。そして、油の重合体は疎水性(=親油性 → 水に馴染みにくく、油に馴染みやすい性質)なので、ブラックポットが油によく馴染むというのはこの性質によるものです。

ダッチオーブンを使っていくと成長していく、丈夫で油がよく馴染むこの皮膜の正体が何なのか、この説明でなんとなく腑に落ちませんか?

この皮膜の正体がわかったことで、良い皮膜をつくる方法も見えてきます。
長くなりすぎるのでそのあたりは以下の記事に別途書きました。スキレットやダッチオーブンのシーズニング方法や、それに適したオイルについて説明し、さらに実際のスキレットを使用してオイルによるシーズニングの出来の違いを実験しています。興味ある方は参照してください。

スキレット/ダッチオーブンのシーズニングとブラックポット化の方法
スキレットやダッチオーブンの正しいシーズニング方法と各種オイルを用いた比較実験結果を紹介します。 スキレット/ダッチオーブンに形成する保護膜を正しく理解することで、効率よくブラックポット化していく方法が理解できるようになります。

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