前回の投稿で、張り綱の強度について考えたことをまとめました。
そこで気になったのが、テントやタープの強度(張り綱に引っ張られる力に対する強度)はどの程度なのだろう? ということです。
まず、なぜ張り綱とテントやタープの強度の関係が気になるのか、そのあたりから僕が考えたことを述べていきます。
張り綱に必要な強度
- ここは、完全に僕の素人考えです。張り綱の強度にはほかにも考慮すべき点があるのかもしれません。後の記述も含めて、僕の認識不足がある可能性が十分にあるということはご了承ください。
例えば、突風などが発生した時、いくら張り綱が丈夫で切れなくても、テントやタープの幕体が裂けてしまったら意味がないですよね。だから、幕体よりも強度がある張り綱を使ってもしょうがないんじゃないかと思っています。
テントやタープの幕が破れるよりは、張り綱が切れてくれたほうが金銭的なダメージも小さいし、予備の張り綱に交換すればキャンプをそのまま続行することもできますよね?
※ 張り綱が切れるほどの悪天候では、続行よりも撤収を真っ先に考えろというのは置いておいて。。
とはいえ、ちょっとした風や衝撃で簡単に切れてしまう様では張り綱の意味がありません。
僕が思うに、幕体が破損するギリギリ前に切れてしまう強度の張り綱が理想かと思うのですが、どうなのでしょう?
それならば、そもそもテント・タープの強度ってどのくらいあるの? という疑問がわいてきます。
今回はそれについて調べてみました。
※ ごめんなさい。最終的には「明確な答えはわからない」という結論です。
テント・タープ生地の強度とは?
まず、テント・タープ生地の強度について、その定義をまとめます。
一般的に生地の強度といった場合、引っ張り強度・引き裂き強度・伸び率といったものが考えられます。以下にそれぞれの意味を説明します。
引っ張り強度
生地を引っ張ったとき、その生地が破れない最大の力を引っ張り強度といいます。
生地やロープを引っ張る力(荷重)には、大きく分けて静荷重と動荷重があります。
静荷重とは、生地やロープに一定の荷重がかかっている状態です。実際に静荷重の試験を行う際は、試験対象にかける荷重をゆっくりと上げていき、試験対象が破損する直前の荷重を求めています。
一方、動荷重とは動的に変化する荷重のことです。例えばタープが風でばたついているときなどは、生地や張り綱にかかる荷重は一定ではなく、強弱を繰り返すような変化をします。これが動荷重の一例です。
一般的に、ロープなどのスペックに、単に引っ張り強度とだけ表記されている場合は静荷重を指すことが多いです。
引き裂き強度
これは生地を引き裂く力に対する強度です。
普通は引っ張り強度よりかなり低いです。例えば紙や布地の両端を持って引っ張るときより、端から引き裂くほうが楽ですよね?
つまり、テントやタープの幕は、きれいな状態では(引っ張り強度は高いため)そこそこの荷重に耐えることはできても、一旦傷がついたり穴が開いたりすると、(引き裂き強度は低いため)そこから比較的簡単にに裂けてしまう事になります。
※ 特に薄手のテント・タープ生地の場合、格子状に太めの糸を使い、引き裂き強度を高めているものがあります。このような生地をリップストップ生地といいます。
伸び率
ロープや生地に引っ張り荷重をかけた際、破断する直前までに伸びる割合です。
これは特に動過重に対する強度に影響します。例えば、ロープに瞬間的に大きな荷重がかかった場合、伸び率が大きいほど衝撃を分散し、切れにくくなります。ゴムやバネが衝撃を和らげるようなイメージです。
ナイロンなどは、ファミリーテント・タープ生地によく使われるポリエステルに比べて、伸び率が大きい素材です。
テント・タープ幕の引っ張り強度
以上、単に強度と言ってもいくつかの種類がある事を述べましたが、今回は張り綱による引っ張られる強度について考えてみるので、引っ張り強度に着目します。
残念ながら、テントメーカーのサイト等をさんざん見てみたのですが、幕の強度を公表しているものは見つかりませんでした。
この時点で、「結論はわからない」ですが、せっかくなのでちょっと食い下がります。
メーカーの公表値はわかりません(公表していない?)でしたが、IRFC(国際赤十字・赤新月社連盟)の興味深いリサーチ結果を見つけました(残念ながら該当ページはなくなくなっています)。救護用のテント・シェルターに最適な繊維材料を比較研究したものですが、試験対象の生地にはファミリーテント向けに使われるものも含まれています。
このリサーチでは、いくつかのテント向け生地について、その耐久性や快適性についてテストしています。 引っ張り強度もそのテストの一つであり、以下にテスト結果を引用します。
http://ifrc-sru.org/wp-content/uploads/2016/03/membranes.pdf(リンク切れ) より
これらのうち、ファミリーテントで使われるクラスの生地は、以下の4種類です。それぞれどのような生地か、上記資料の記載をまとめると以下のようになります。
Polycotton 200 | 200g/m^3のポリコットン | ファミリーテントでウォール等に使われる生地 |
Polycotton 350 | 350g/m^3のポリコットン | ファミリーテントではルーフ等に使われる生地 |
PU/PES 55 | 55g/m^3のPUコーティング済みポリエステル | Easy Camp Tipi の生地 (190T ポリエステル+ポリウレタンコーティング 耐水圧1,500mm) |
Sil/PA 53 | 53g/m^3のシリコンコーティング済みナイロン生地 | Vaude Hogan Ultralight Argon の生地 (40D240Tナイロン+両面シリコンコーティング 耐水圧10,000mm) |
PU/PES 55はわりと普通のファミリーテントで使われるクラスのものですね。Sil/PA 53は、登山などに使われる、高スペックな生地で、シリコンコーティングを施したナイロン生地です。ヒルバーグのテントで有名な、いわゆるシルナイロン(Silnyron)というやつですね。
ポリコットンについては僕はよく知りません。すいません。。
この表を見ると、PU/PESやSil/PAの引張強度は、おおよそ400-500N(ニュートン)、これはキログラムに換算するとざっくりで最大50Kg重の引っ張り強度ということになります。
ところで、このグラフの数値については、資料中にISO 13934-1で定められる方法でテストしたとされています。とすると、上記のグラフは、幅50mmの生地の引っ張り強度ということになるのではないかと思います。
これはテントやタープの作り次第で大く変わる部分であり一概に言えませんが、仮に張り綱による幕体へのテンションは100mm幅に均等にかかると仮定します。その場合、上記のPU/PESやSil/PAは最大100kg重の引っ張り強度があるということになります。
特に最後のほうは仮定に仮定を重ねた結果なので、大分怪しげな気もします。
それでは、直感的に100kgってどうなのってことですが、例えば張り綱に体重100kgの人がぶら下がったらどうでしょう? 少なくとも最近僕が使っているテントは壊れそうです。
生地が裂けるより前に、張り綱の取り付け部の縫い目がやられるか、ポールが折れるかしそうです。タープのほうが取付け部はしっかり補強されているように見えますが、100kgfはきついんじゃないかなあといった感じに見えます。
※ 僕は重くて大きい幕が嫌なので、オートキャンプ向けとしては比較的軽量のテント・タープを使っています。造りのしっかりした大型幕だと、また違う印象かもしれません。
余談になりますが、上に挙げた結果では、ポリウレタンコートのポリエステル生地と、シリコンコーティングのナイロン生地(シルナイロン)の引っ張り強度が同等となっています。
あれ? ヒルバーグで有名なシルナイロンは強度が高いはずないの? と思うかもしれません。
これは、上記のリサーチ結果を見てみるとわかることですが、シルナイロンは引張強度ではなく、引き裂き強度がすごく強いんです。引き裂き強度に関しては、PUコートのポリエステルより何倍も強度があります。