ガイラインとかガイロープなどとも呼ぶことが多いですが、当記事では張り綱と表記しています。
キャンパーではガイロープと呼ぶ人が多い(僕も普段はそう呼ぶことが多いと思います)ですが、「張り綱」という言葉は、それが何なのか知らい人にも「テントの張り綱」って言えばなんとなく伝わりそうだし、わかりやすいような気がしませんか?
当記事では、その「張り綱」について、その種類・強度の目安等について説明します。
僕はもう何年もほぼファミリーでのオートキャンプ専門です。だから使うテントはファミリーテントやそこそこのサイズがあるタープだったりします。
ファミリーキャンプ向けのテントやタープって、大抵は直径が4mmくらいの張り綱が付属していたり推奨されていたりしますよね。
ところが、昨年購入したタープ(MSR ランデブー)に付属している張り綱は明らかに細いんです。測ってみた感じではだいたい3mmくらいでした。いままで見慣れている4mmくらいの張り綱に比べると、いかにも頼りなさげに見えます。
ただ、張ってみた感じは細めの張り綱がシュッとしてスマートな感じで、結構気に入っています。まだ今のところは強風にあったことがないこともあり、特に問題もなく使えています。
とはいえ、この細い張り綱で本当に大丈夫なのか? やはり気になるので調べてみました。
張り綱の太さと強度
まず張り綱の太さが影響するのは何かを考えると、ぱっと思いつくのは、強度と視認性ですよね?
視認性については、同じカラーであれば太いほうが目立つのは明らかだと思うので、ここでは強度について考えてみます。
よく聞く話が、(ファミリーテント・タープでは)直径4〜5mmが良いというものですよね?
でもこれってなぜなのでしょう? 強度なんて素材や編み方で変わるんだから、太さだけを目安にするのはちょいと乱暴では?
張り綱の素材
代表的なものに、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレンや超高分子量ポリエチレンなどがあります。
まずは、張り綱に限らず一般的にロープの素材として代表的なナイロン、ポリエステル、ポリプロピレンの特徴です。
これについては、株式会社ユタカメイクさんのこのページに素晴らしくよくまとまっています。
ぜひ見てください。各素材の特徴・ロープの太さごとの強度の目安からロープの種類まで、とても分かりやすく簡潔にまとまっています。情報提供のお手本みたいなページですよ。(アウトドアメーカーさんはこのあたり適当すぎると思うんですよ。。)
元サイトを見ていただけばすむ話ですが、ここでは張り綱として関連がある情報に絞って、抜粋・引用させていただきます。
素材名 概要 引張強度
(太さ3mmの場合)ナイロン 一般の合成繊維の中で最も強力に優れています。
摩擦とショックに非常に強いロープです。
吸湿力5%とやや水を吸う性質があります。
リードロープや牽引ロープ・安全ネットの補修等に最適です190kgf ポリエステル 酸・アルカリ・海水等に強く、耐候性に優れ、摩擦にも非常に強く、強力に優れたロープです。
マリンレジャーや漁業用には欠かせないロープです。
荷役・作業用・救命ロープ・命綱にも使われています。100kgf ポリプロピレン 安価で軽量・強度に優れたロープです。
素材の特性として紫外線に弱いところがありますが、着色することでその欠点を克服しています。
水に濡れても硬くならず、主に漁業用のロープや荷役用ロープとして活躍しています。110kgf 出典 : 株式会社ユタカメイク ロープ豆知識
本当にこのサイトをみてもらうだけで充分なのですけど、張り綱として考えたときに気になる特徴を追加したうえで以下にまとめます。
ナイロン
- ポリエステル、ポリプロピレンより強度が高い
- 比較的水・湿気を吸収しやすい
- 摩耗しにくい
- 比較的伸びやすい
引っ張り強度が高く、伸びやすい性質があるので衝撃に強いです。(伸びにより衝撃をやわらげるため)
おそらく以前はナイロン製の張り綱が一番メジャーでした。いまは、価格が少し安いポリエステルやポリプロピレン製のものが増えてきているように思います。
ポリエステル
- 強度が高い(ナイロンよりは少し劣る)
- 水・湿気をほとんど吸収しない
- 濡れてもほとんど性質が変わらない
- 摩耗しにくい
- 伸びが殆ど発生しない
張り綱によく使われている素材です。
水に濡れても性質が変わらず、紫外線による劣化も少ないため、アウトドア用途ではよくつかわれる素材です。
ポリプロピレン
- 強度はポリエステルと同等か少し高い
- 軽い(ナイロン・ポリエステルは水に沈むがポリプロピレンは水に浮く)
- 水・湿気をほとんど吸収しない
- 水に濡れてもほとんど性質が変わらない
- 摩耗しにくい
- ナイロン・ポリエステルに比べて紫外線により劣化しやすい
張り綱としての用途では、おおむねポリエステルに似た特徴です。コストも安く、張り綱にもよく使われています。
紫外線に弱いですが、紫外線対策の添加物を入れる等の対策をしているものもあります。
パラ系アラミド繊維
上記の3素材に加え、このパラ系アラミド繊維と次に挙げる超高分子量ポリエチレンは、いわゆるスーパー繊維と呼ばれるものの一種で、特に登山等の軽量・高強度が要求されるテント・タープの張り綱として用いられています。
パラ系アラミド繊維と言っても聞き慣れないかと思いますが、ケブラー(Kevlar)というのは聞いたことがあるかもしれませんね。おそらく世界初のスーパー繊維と言われているのがこのケブラーで、これは米国デュポン社の商品名です。
一方、少なくとも日本で張り綱に使われているパラ系アラミド繊維は、その多くが帝人の商品である「テクノーラ」だと思います。
同じパラ系アラミド繊維ですが、テクノーラはケブラーと製造方法が異なり、若干強度がケブラーよりも強度が高いようです。
超高分子量ポリエチレン
「超高分子量ポリエチレン」って、なんだか小難しい名前ですが、少なくともアウトドアの世界では、この名前で呼ぶことはあまりありません。
一般的に使われる呼称は「UHMWPE」とか「UHPE」(どちらもUltra High Molecular Weight Polyethyleneの略)です。
実際には、オランダDSM社の商品名である「Dyneema(ダイニーマ)」(買収やらなんやらで色々あって、今では日本では同じものを東洋紡が「IZANAS(イザナス)」の商品名にしています)や、アメリカなどではそれに加えてハネウェル社の商品名である「Spectra(スペクトラ)」が有名で、UHMWPEのことをまとめてこれらの商品名で呼んでしまうこともあるようです。
※ 実際にはこれら以外の会社でもそれぞれの商品名で多く販売されている繊維です。
以下にUHMWPE製ロープの特徴を挙げます。
- 強度はナイロンの数倍あり、パラ系アラミド繊維よりも少し高い
- 軽い(水に浮く、パラ系アラミド繊維よりも比重が軽い)
- 水・湿気をほとんど吸収しない
- 水に濡れてもほとんど性質が変わらない
- 摩耗しにくい
UHMWPEとほかの素材をロープにした場合の特徴比較は、こちらによくまとまっています。
軽くて非常に強度が高く耐衝撃性にも優れるため、登山用のロープや張り綱で使われています。ただし、価格は高価なので、重量がさほど重要にならないファミリーテント用の張り綱としてはあまり使われていません。
張り綱の種類
一口にロープと言っても、その繊維の編み方には様々なものがあります。ここでは張り綱でよく使われているものを紹介します。
ブレイド編み
張り綱ではごく一般的なものです。複数の糸(ストランド)を編み込んで1本のロープにします。
強度が高く、表面にほどよく凹凸ができるので、結び目が解けにくいかったり、自在がよく喰い付くため、張り綱として使いやすいロープだと思います。
ダブルブレイド編み
ブレイド編みの二重構造です。 UHMWPEの張り綱などはほとんどがこのタイプです。内芯にUHMWPEのブレイドを使い、外側は紫外線等に強いポリエステル等を使っているものが多いです。
パラコード
数本(4mmパラコードなら7〜9本程度)の撚り糸を比較的細めの糸で細かく編み込んだ外被で包み込んだ構造です。
もともとはパラシュートに使うためのものだったので、パラシュートコード(パラコード)とよばれています。
今ではもっと適した繊維があるので、おそらくパラシュートには使っていないと思いますが、安くて丈夫な性質から、アクセサリー(パラコードクラフト)やその他様々な用途で使わています。もちろん張り綱として使われることも多いです。いろいろなカラーが販売されているのも良いですね。
本来のパラシュート用に使われていた頃は強度が最重要であり、素材はナイロンと決まっていました。今でもアメリカのmilspecでは素材はナイロンであることと規定されています。
今では(milspecではない)商用パラコードには、ポリエステルが使われているものも多いです。
僕もキャンプには必ず持っていきますが、張り綱として使ったことはないです。物干し用のロープやちょっとしたものを固定するのにすごく重宝しています。
パラコードは表面が比較的平坦でちょっと自在がすべりやすいです。テントに付属していた2穴のいわゆるブタ鼻自在はだめでした。持っていた3穴の自在ならかなり喰い付くので大丈夫だと思います。
張り綱の強度(耐荷重)
テントメーカーのサイト等で張り綱のスペックを見ても、強度(耐荷重)を公開している例は少ないです。逆に本来張り綱ではないパラコードは耐荷重を明記している例が多いようで、直径4mmの場合は200〜300kgf(milspecのものは必ず約250kg以上)といったところです。パラコードはかなりの耐荷重ですね。
ここで先に上げた 株式会社ユタカメイクさん のページに戻ります。
ここを見ると、3mmのロープでもナイロンは190kgf(190キロの力までの引っ張りに耐えられるということ)、ポリエステルとポリプロピレンでも100kgfと、張り綱には余裕でしょ?って言うくらいの強度がありそうです。(100kgの力をかける前にきっと幕体が破れるとおもうんですよね)
※ 実際にはロープの編み方や繊維の状態等で強度は大きく変わるので、この数字はあくまでもざっくりとした目安と思ってください。
これを見て、「じゃあやっぱり張り綱は3mmもあれば十分じゃん。4~5mmとか言い出したの誰だコラ!」っ思った僕でしたが、実はこれ、ちょっと性急な考え方なんです。
実際に使うとなると、ロープの耐荷重は、これから挙げるいろいろな要因でスペック通りの性能を発揮しないんです。
使用時の強度と劣化
結び目の影響
まず注意すべきことは、ロープの結び目でかなり強度が落ちるということです。
様々なロープの結び目による強度の劣化について実験した結果が、こちらにあります(残念ながら現在リンク先がなくなってしまいました)。以下にその結果の一部を引用させていただきます。
※ ここでは7mmの細引きを使った結果を引用しています。リンク先ではその他の太さのロープを用いた実験も行っていますが、おおむね同様の結果となっています。
http://caves.org/section/vertical/nh/50/knotrope.html(リンク切れ) より
これを見ると、結び目の強度はだいたいロープそのものの60~70%になっています。
※ ロープによっては強度が半分以下になるケースもあるようです。
ところで、幕に貼り綱を結ぶときって、もやい結びにしている人が多いんじゃないでしょうか。僕はそうしています。
でも、この結果を見るともやい結び(Bowline)よりも8の字結び(Fig.8 end/bight)のほうが少し強度があるようです。
僕の場合、張り綱は幕につけっぱなしだから、結びやすさ/解きやすさはあまり気にしません。そんな場合は8の字結びにしておいたほうがよさそうですね。
水の影響
繊維の中にはは水や湿気を吸収し、その性質を変えるものがあります。ここで挙げた素材のうち、ナイロンもそうです。(ナイロン以外のものはほとんど水を吸いません)
天然素材(コットン、麻など)の天然素材のロープの場合、水に濡れると強度が高くなるのだそうですが、逆にナイロンの場合は水に濡れると、その強度が15%ほど低くなります。
ほかの素材(ポリエステル・ポリプロピレン・UHMWPE)については、水に濡れてもその強度はほとんど変わりません。
紫外線の影響
ロープに使われる素材は、多少の差はあるものの、必ず紫外線による影響があります。
これについては、あいち産業科学技術センターの三河繊維技術センターによる研究結果があります。
以下にその一部を引用します。
http://www.aichi-inst.jp/mikawa/research/report/mikawa_2004_02.pdf
ここでは評価の対象になっていませんが、UHMWPEの紫外線耐性は高く、ここのナイロンと同程度といったところです。
ナイロンついては、半年ほどで強度が80%になっています。オートキャンプをする人の多くは年間10泊もしないのではないかと思います。この場合、ナイロンロープの紫外線の劣化はさほど気にしなくてもよいように思います。(紫外線以外の要因での劣化が支配的になると思います)
気になるのは、ポリプロピレン(表の中で”PP特殊モノフィラメント”とされているものがポリプロピレン製のロープです)です。これは半年で50%近くまで強度が低下しています。
※ ただし、アウトドア用のロープには、素材中に紫外線対策になる材料を添加して、耐紫外線を高めているものも多いです。
その他
もちろん自在などの摩擦による劣化等もあるでしょう。他にも、ロープの中に異物(砂粒など)が入って繊維を傷つけたり、用途によってはロープの伸縮時の摩擦による熱が影響することもあるようです。
結局どんな張り綱がいいの?
それで本題の、テント・タープの張り綱は、どの程度の強度が必要なのかについてですが。。。
これについては、はっきりした答えは出せないです。というか、使う人の考え方次第ですね。
僕としては、テント・タープの幕が破れるより先に張り綱が切れてほしいから、あまりにも強すぎる張り綱は使いたくないです。とはいえあまり簡単に切れてしまうのも困りますね。
そうなると張り綱は使うテント・タープの幕と同じくらいの強度がちょうどいいのでしょうけれども、引張強度が公開されているテント・タープは見つかりません。
結局のところ、テント・タープに付属しているものや、付属がないものは推奨しているものがちょうどよいものと考えるしかないんですかね?
ちょっとでもかさばらないほうがよいとか、細めのシュッとしたシルエットがよいといった場合は、例えば4mmの張り綱が付属していたテントにはUHMWPEの2〜3mmをつかってみるなんていうこともできそうに思います。
追記2 : 張り綱にかかる負荷のちょっとした計算結果等を踏まえ、僕なりのガイロープ選定の目安について以下の記事にまとめてみました。
追記: ポールが折れた
この記事を書いた後、2回目のキャンプでそれはおきました。
詳細はこちらの記事こちらの記事を参照してください。
タープの生地がペラペラだったり、付属の張り綱が細くて大丈夫だろうかなんて心配していたのですが、強風にやられたのはポールだったというオチでした。。。