アウトドアでのガス燃料/ガスカートリッジの種類と目的別選び方

キャンプなどのアウトドアで使う燃料として、最近もっともよく使われているのは、おそらくガス(LPG)では無いでしょうか?

この記事では、アウトドアで使われるガスの種類やガス缶(カートリッジ/キャニスター)の種類について説明し、最後におすすめ(?)するシングルバーナーをすこし紹介します。

ガスの種類

家庭用、アウトドア用で使用されるガスカートリッジに充填されているガスには、ブタン(ノルマル       ブタン:n-ブタン)、イソブタン(i-ブタン)、プロパンの3種類があります。

それぞれの特徴を表にしたものが以下となります。

ノルマルブタン イソブタン プロパン
沸点 [℃] -0.5 -11.72 -42.04
蒸気圧 [kPa] (約40℃) 378.5 527.6 1,375.9
総発熱量 [kJ/kg](約25℃) 49,525 49,383 50,374
一般的な価格(比較)
日本LPガス協会 : LPガスの性質より抜粋引用

細かい数字の値はさほど意味はありませんが、ここからわかることは、プロパン>イソブタン>(ノルマル)ブタンの順に、低い温度でも圧力(蒸気圧:気化した気体の圧力)が高くなるということです。

総発熱量とは、一定量のガスを燃焼させたときに得られる熱量のようなものです。ここでは、どのガスでも単位質量あたりの発熱量はほぼ同じであることを示しています。
※ ちなみに、(気体になったガスの)単位体積あたりの発熱量はブタンのほうがプロパンよりも3割程度高くなります。つまり、同じ体積のガスを燃焼した場合の発熱量はブタンのほうが大きくなります。
いずれにせよ、実際に使う際に総発熱量よりも火力に効いてくるのは蒸気圧(ガス缶からガスを押し出す圧力)のほうです。

例えば、(ノルマル)ブタンが充填されたガス缶を考えます。

ブタンの沸点が-0.5℃ということは、ガス缶の温度が-0.5℃以上の場合、ガス缶中の気化したブタンは1気圧以上になっているということです。
逆に-0.5℃以下の場合はガス缶の中は1気圧以下ということになります。この場合、ガス機器にガス缶をセットしても、なかからガスは出てこないということになります。

このように、ガス機器に十分なガスを供給するには、ある程度の温度が必要となります。

その必要な温度が低い、つまり寒いときでも十分にガスを供給できる能力がプロパン>イソブタン>ノルマルブタンの順に優れているということです。

ただ、残念なことに同じ順で価格も高くなっているわけなんですね。

そういったことから、主に屋内で使うカセットコンロ向けの低価格のものはノルマルブタンが主成分で、気温が低くても十分な火力が得られるようにするための少し高価なカセットガスにはイソブタンが多く配合されていたりします。

イワタニのカセットガスの例
種類 ノルマルブタン イソブタン メーカー希望小売価格
イワタニカセットガス 約70% 約30% 350円
イワタニカセットガスパワーゴールド 約30% 約70% 450円
イワタニホームページより引用

さらに、アウトドアメーカーなどではさらにイソブタンの割合を高くしたり、少量のプロパンを配合したりしたカセットガスがあったり、アウトドア向けのOD缶(後に説明します)にはプロパンを数10%以上配合したガスが充填されていたりします。

ガス缶の種類

まずは、ガスの缶には2つのタイプがあるということについて説明します。

OD缶とCB缶

ガス缶(キャニスター)には、大きく分けてCB缶とOD缶と呼ばれる2種類のものがあります。

OD缶とCB缶

CB缶というのは、いわゆるカセットボンベのことで、普通のカセットコンロなどに使われるものです。

OD缶というのは、もともとアウトドア用途で使われるために作られているものです。上の写真の左側の寸胴の形をしたやつです。キャンプや登山用品で使われるものはこのOD缶が多いです。

なぜアウトドアではOD缶が使われてきたのか?

まず第一に、海外ではCB缶からして珍しいということがあります。国によるとは思いますが。

日本みたいに、誰しもがカセットコンロを使い、そのへんのスーパーやコンビニでカセットボンベが売られている方が例外的なんですね。

もう一点、CB缶とOD缶ではガスの圧力に対する強さが違うことがあります。構造的にOD缶のほうがガスの内圧に強いものを作りやすいのです。

寒い環境で十分な火力を得るには、内圧の高いガスを使うほうが有利であることは先に説明しましたね。

アウトドアでは、寒冷地や高地で屋外で使うことも想定する必要があるので、プロパン・イソブタンの配合を高めにする必要があります。そのため、内圧に強いOD缶が使われることになるのです。

ガスは気化するだけでも気化熱として熱が奪われるためカートリッジ内の液化ガスの温度が下がります。つまり、使うだけでキャニスター内の液化ガスの温度は下がってしまいます。
最近のカセットコンロなどは、わざわざカセットボンベを温めるための仕組み(例えばイワタニのヒートパネル)がついていたりします。

とくに登山などではかなり寒い環境で使う必要があり、こういった用途にはプロパンやイソブタンの含有率が多いガスを使います。

このとき、内圧に強いOD缶が必要となるわけです。

アウトドアでいまだOD缶が主流な理由は説明しましたが、OD缶のデメリットとして、以下がありますね。

  • 入手しにくい
    • 一部のホームセンターか、アウトドアショップに行かないとなかなか売っていませんね。キャンプ場にも売っていることが多いですが、メーカーは限定されてしまいます。
  • 高い
    • 同じ量で比較しても実勢価格がCB缶の倍以上はします。もちろん混合しているガスのちがいもありますが、CB缶はおそらく量産効果も大きいので価格に差が出てくるのだと思います。

CB缶ではダメなのか?

それではCB缶はダメなのかというと、寒い環境で使わない限り問題ありません。

実際のところ、近年のキャンプブームにより、登山向けのようなハイスペックなものは必要のないファミリーキャンブ・オートキャンプの需要が高くなっており(登山よりマーケット大きいんじゃないかと思います)、日本のメーカー(SOTO、スノーピーク、UNIFRAME)ではそういった層向けにCB缶の製品を出してきています。

ただ、今の所CB缶が安く、ファミキャンのマーケットが大きいのは東アジア諸国くらいだと思うので、欧米の有名メーカーはCB缶対応製品は出していないです。

CB缶でもイソブタンを配合して寒さに強くなっているCB缶も各社から販売されています。それでも寒い日に屋外で使うと火力は下がっちゃいますけど。流石にそのあたりは、プロパンを比較的おおく配合しているようなOD缶にはかないません。
普通にファミリーキャンプを楽しむくらいの環境であれば、冬でも必要であれば体温で温めるなどの工夫(火にかけたり熱湯につけたりするのは危険だからダメ)をすれば全く火がつかないなんてことにはならないです。← イソブタン配合多めのガスの話です

CB缶とOD缶の違いまとめ

ここで、CB缶とOD缶のざっくりとした違いをまとめます。

種類 CB缶 OD缶
実勢価格 安い (100円-500円) / 250g 高い (300円-1000円) / 230g
寒さ耐性 弱い(OD缶ほどではない) 強い(ものもある)
入手性 良い(メーカーによる) 悪い

上記の比較表は、あくまでも参考程度に考えてください。

実際に、充填されているガスの種類によって違いが出てきますので、例えば安いOD缶よりも高価なCB缶のほうが寒さに強かったりします。

また、入手性については、CB缶対応のシングルバーナーを販売しているメーカーはいくつかありますが、純正のCB缶の入手性が良い(スーパーやコンビニなどでも買える)のはイワタニくらいです。
SOTOやスノーピークなどのCB缶は、アウトドアショップやネット販売で入手することになるので、これらの入手性はOD缶とさほど変わらないと思います。

他メーカーのガス缶を使ったりガスの再充填で安く済ませる?

他メーカーのガス缶を使ったり、高価なOD缶に、安いCB缶のガスを再充填して使ったりするのはやめましょう。

CB缶もOD缶も、大抵は他メーカーのガスカートリッジをセットすることは出来ますが、安全性はまったく確認されていないので、災害/緊急時でもない限りは使わないほうが良いです。
そもそもガス機器の説明書にも他メーカーのものは使わないように注意書きがされているはずです。

この辺の理由について、詳しくは以下の記事で説明しています。(この記事ではおもにカセットコンロを中心にしていますが、OD缶を使うようなバーナー類でも同様です)

カセットコンロに他メーカーのカセットボンベは使えるのか?
原則として、カセットコンロに他メーカー製のカセットガスを使ってはいけません。 なぜ使ってはいけないのか? なぜ「原則として」なのか? その理由を説明します。

比較的高価で入手性が悪いOD缶に、別のガス缶からガスを再充填するというのも危険なのでやってはいけません。
再充填のアダプターなんかも普通に販売されているので、特に危険だと意識せずにやっている人も多いのではないかと思います。

まず、ガス缶は再充填することを想定した作りにはなっていないそうです。つまり、高圧と低圧を繰り返しても問題ないような作りにはしていないということじゃないかと思います。
ガス缶にも再充填はしないように注意書きがあると思います(注意書きがないものは見たことがありません)。

経産省の資料に「簡易な液化ガス容器への再充てん禁止に係る注意喚起」(←リンクになっています)というものがありました。CB缶もOD缶もここで言っている「簡易な液化ガス容器」に該当します。そもそも再充填は法律で禁止されているとのことです。
※ YouTubeとかでやっちゃっている人は消しといたほうがいいかもしれませんよ。

周囲を巻き込む危険があるのに自己責任もクソもありませんね。
山行/キャンプを一回がまんすればガス缶10個分以上の費用が浮きますよ。

それと、燃料費を抑えたいならガスよりもガソリンや灯油が良いと思います。

ガスを使うと火力が弱くなる?

ここまでの説明で、使う環境(気温)に応じたガスを使えば、安定した火力を得られるように感じられたかもしれません。

確かに、夏場などの気温が高い環境では十分安定した火力は得られます。

ところが、特に気温が低めの環境で問題になることが「ガスを使うと火力が落ちてくる」ということです。

火力が落ちる理由

ストーブ(バーナー)の火力が落ちる(ガスランタンの場合は明るさが落ちる)原因は主に2つあります。

ガスの混合比が変わる

これは、ノルマルブタン/イソブタン/プロパンの混合ガスの場合に起きるものです。

先に説明したように、それぞれのガスは同じ温度の場合でも蒸気圧が違います。つまり、気化のしやすさが違うということです。

そのため、通常はプロパン>イソブタン>ノルマルブタンの順に気化しやすい(先に気体になってしまう)ため、使っていくうちに蒸気圧の低いガスの比率が高くなっていきます。

つまり、温度が十分でない場合は、使っていくうちにガス缶の中の圧力が低くなっていき、結果として火力が弱くなってしまうのです。

ガスの温度が下がる

もう1つの理由-そしてこれの影響が非常に大きい-が、使っていくうちにガス缶内部の温度が低くなってしまうというものです。

先に説明したように、ガス缶内部の圧力は温度に大きく依存します。温度が低くなってしまうことがガス圧の低圧に直結します。

これは、いわゆるドロップダウン(現象)と言われているものです。

“ドロップダウン現象”って、なんだか大仰な呼び方ですが、おそらく日本のアウトドア業界だけで通用する用語だと思います。(違っていたらごめんなさい)
いちおう理工系出身の僕も「ドロップダウン現象」なんて聞いたことがありませんでしたし、言葉からはどんな現象なのかまるで想像できませんよね。。

ドロップダウンが起きる理由は、液化ガスが気化(蒸発)する際の気化熱です。つまり、ガスが気化する際に、周りの熱を奪うため、ガス缶内部の温度が下がってしまうのです。

なので、これは混合ガスだけでなく、すべての液化ガスを気化する際に出てくる問題です。

例えば、スプレー塗料を使ったり、スプレー缶を捨てる前に中身のガスを全部出す場合みたいに、比較的大量のガスを出すような時、スプレー缶が冷たくなる経験をしたことがありませんか?
これがまさにスプレーに使われている液化ガスが気化したときに気化熱を奪った結果なんです。

この温度低下はけっこう大きく、寒いときにはガス缶に結露したり、氷がついたりすることもあるほどです。

ガス缶カバーがガス缶の防寒目的に使えるという誤解が一部あるようですが、これは逆効果です。
説明したように、ガス缶はガスの気化熱により気温より低い温度に下がります。ガス缶カバーによる断熱は、むしろガス缶が冷えるのを促進する(暖まりにくくする)方向に働きます。
ガス缶カバーは、見た目を良くしたり、ガスカートリッジへの物理的な衝撃から守るためのものです。

このあたりは、以下に別記事で解説しています。

最近のカセットコンロなどには、ドロップダウンによる火力低下を抑えるためにガス缶を温めるための仕組み(例 : イワタニのヒートパネル)が備わっていたりします。

ヒートパネル

イワタニのヒートパネル

液出し方式 : 火力低下を防ぐ方式

液出し方式の仕組み

使っていると火力が下がってくるという上記の問題を解決するのが、ガスの「液出し(liquid-feed)」方式です。

液出し

OD缶を逆さにすることで液出しになります

これは、液化ガスをガス缶の中ではなく燃焼機器側で行うことにより、ガスの混合比が最後まで変わらず、温度の低下もしないようにするものです。

以下に図解しているように、ガス缶を逆さまにすることで、ガス缶から液体の状態でガスを出すようにします。この液化ガスはバーナーの炎で温められて気化する仕組みになっています。(ガソリン等の液体燃料をつかうバーナーもこのような仕組みです)

液出し

ガス缶の正立使用と液出し使用

こうすることで、ガス缶内部でのガスの気化がほとんど無くなるため、温度の低下もガスの混合比の変化もほとんどなくなります。そのため、最後まで安定した火力を得ることが出来るのです。

液出しに対応した機器が必要

ところで、液出し方式でガスを燃焼させるためには、上の図からもわかるようにバーナー側に液化ガスを気化させる機能が必要になります。

仕組み自体は単純で、ガスを通す管を燃焼している火に近づけることで内部のガスを熱して気化させるというものです。

この、ジェネレーターというガスを気化する仕組みがついたバーナーでないと液出し方式で使うことは出来ません。

ジェネレーター

ジェネレータで液体燃料を気化するというのは、ガソリンバーナーと同じですね。
実際にガソリンと、ガスの液出しの両方で使えるバーナーもあります。(後に紹介します)

液出しのデメリット

この液出し方式にもデメリットはあります。

それは、火加減の調整が難しいということです。液化ガスは通常ガス缶の出口のバルブで流量を調整するのですが、例えばここでバルブを絞っても、バーナーまでの管に液化ガスが充満している状態なので火加減が変わるまでに時間がかかります。

また、その仕組み上(気化ガスを使うバーナーに比べて)弱火を維持するのが難しいという弱点もあります。あまり繊細な調理に使うのは難しいかもしれませんね。

それと、現状日本で正規販売されているバーナーで液出し対応のものは限られており、選択肢が少ないのもデメリットですね。

おすすめシングルバーナー

最後に、僕がオススメする(これから自分が買うならコレのどちらかにする)シングルバーナーを2つだけ紹介します。

「自分で買うなら」というように、僕が自分で所有して使ったことがあるわけではありませんのでご了承ください。

コレばかりは使う目的や重視する点は人それぞれだと思うので、あくまでも参考ということで。。

CB缶おすすめバーナー : イワタニ ジュニアコンパクトバーナー

CB缶ということで選ぶと、イワタニのジュニアコンパクトバーナーになります。

なんと言っても「イワタニ」なところが僕的には高評価となります。

なぜ「イワタニ」が高評価になるかと言うと、“イワタニのカセットボンベはどこにでも売っている”からです。コンビニでも大抵は置いてありますよね。

アウトドアショップに行かないと売っていないCB缶を使うくらいなら、僕ならOD缶にするかなあ。

もちろんバーナーとしての完成度も高い製品だと思います。知人のものを触らせてもらったことがありますが、軽量・コンパクトの割に火力もなかなかのものだと思いました。

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OD缶おすすめバーナー : SOTO ストームブレーカー

OD缶に関しては選択肢も多く、目的によってまるで違うものが最適だったりする(例えば軽量化重視だったらストームブレーカーは選びません)とは思います。

ここでは国内で正規販売されている「液出し」対応のまあまあコンパクトなシングルバーナーということでピックアップしました。(ちょっとデカめのものなどはスノーピークにもありますが)

SOTOのバーナーはCB缶のものも含めよくできていて(SOTOブランドの会社名は”新富士バーナー”ていうくらいだし)人気も信用もありますね。

ちなみに、ストームブレーカーはガソリンを燃料にすることもできます。災害の備えにもいいですね。
※ 実は普段ガソリン派の僕は、ガソリン使用時の優れた性能のほうに注目していたりします。

ガスバーナーと考えるとちょっと高いんですけどね。。
液体燃料やガスの液出しのためのジェネレーターとかがあるので、それを考えると妥当な価格だとは思います。

OD缶おすすめバーナー(軽量版): SOTO マイクロレギュレーターストーブ

OD缶ならではの軽量バーナーのおすすめはこちらになります。

軽量バーナーといえば、構造的に一体型となります(OD缶では軽量な一体型にできることも有利なポイントですね)。

100gを切るようなバーナーも最近では色々ありますが、すり鉢状のバーナーヘッドで比較的風に強く、火力も十分な点が主な評価ポイントです。

五徳が軽量な3本爪と安定性の4本爪が選べるのもいいですね。

バーナーといえば伝統的にプリムスやMSRの海外メーカーの人気が高い(そして信頼性が高いと考えられがち)ですが。SOTOのバーナーはいいですよ。

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KANI

キャンプ好きサラリーマン。歴は長いけど最近キャンプの機会は激減中。
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